マリアがあっさりと言った言葉。そのことのはに、ドクリ、と心臓が高鳴った。
「…お姉様のこと、愛していらっしゃるわよね?」
再度繰り返される確認。もう、認めていることだ。蓮に近しい存在…社長や、社には当然のことと認識されており、からかいの材料にもされている、彼女に対する『想い』。
「……。…うん。」
でも。よくよく考えてみれば、誰かにその『想い』を伝えたことなんてなかった。
「ずっと。ずっと……」
―――…あなた…妖精――…?―――
蒸し暑い京都の河原で出会った、涙に濡れたツインテールの女の子。今、目の前にいる少女よりも幼いその子は、やたら我慢強くて、一途で、何に対しても一生懸命で。そして…
―――またお母さんに怒られちゃうよ……―――
―――ショーちゃんはねェ、わたしの王子さまなの~~~―――
誰かを想い、泣いて、笑って……誰よりも、『愛されたい』と願っていた。小さな身体には、たくさんの相手を想う『愛』に溢れていた。可愛らしくて、とても綺麗な女のコ。
「彼女に王子様がいた時だって、本当は」
涙に濡れた瞳が、彼の『嘘』で笑顔になったその瞬間から。妖精として空を飛んでみせた『あの日』。満面の笑みで拍手をしてくれたあの時から。…演じることがやっぱり好きなんだと、気付かせてくれたあの日から、彼女はいつだって特別だった。
「好きだった…。だって、彼女は」
―――私はね、キョーコ!!よろしくね!!―――
『妖精か?』という問いを、否定する暇さえ与えず、頬を紅潮させ、大きな瞳をキラキラと輝かせながら近づいてきた女の子。醜い心が巣食い始めていた『クオン』にとって、まるで明るい光でできたような少女は、眩しい存在だった。
その子はクオンを妖精と呼んだけれど、クオンには少女が天の使いのように見えた。神聖な、美しい、穢れを知らない存在だと、そう思った。
でも……
―――…コーン…かわいそう……―――
何も苦しいことなど知らないというように、満面の笑顔を浮かべてクオンにあいさつをした『キョーコちゃん』。だが、彼女はおよそ6歳の少女が置かれる立場ではないだろう、過酷な状況下にあった。
それでも笑顔を絶やさない少女が、クオンの立場を想い、流した涙はひどく美しいものだった。
その涙を見て、とても悲しい気持ちになった。その当時、純粋にクオンのことだけを想い、泣いてくれる存在など身内以外に周りにはいなかったから、その悲しみの表情に胸を痛めた。…そのことに、嘘はない。
でも。あの時。その涙を『嬉しい』と。クオンの心を想い、小さな胸を痛めて泣く少女のその涙が、戸惑うほどに嬉しいと、感じてしまったのだ。
それは、天使を想う心にしては穢れていた。けれど、クオンにとっては、再び立ち上がる力を与えてくれる、大切な感情だった。
それは、あの小さな少女が、クオンの心を動かす唯一無二の……
「俺の…お姫様だから……」