(それでは、ルールを説明します①)
「…ということで、改めまして。これから1ヶ月1万円生活を送る敦賀蓮です。よろしくお願いします。」
「……お、同じく…敦賀さんのサポートを務めます、敦賀さんの後輩の『京子』です。よ、よろしく、お願いいたします……。」
リビングルームに備え付けられている定点カメラの前。蓮がそれはそれは美しい笑み(似非紳士スマイル)を浮かべてあいさつをする。
「こ、これ…。カメラだったんですね……。」
「そうだよ。ここで1ヶ月間過ごすわけだから、この家にはたくさんカメラが仕込まれているのは当然じゃないか。これはまだ分かりやすい方だろうね。…可愛いぬいぐるみでカモフラージュされているけれど……。」
ちらりちらりと部屋の中に視線を向ける蓮。その様子を不安そうに見つめるキョーコに、蓮はにっこり笑って見せた。…今度は似非紳士スマイルではなく、安心させるための笑みを。
「ここのリビングルームは、このテーブル前のぬいぐるみカメラと…あそこ。天井のところに1点。多分、全体を映すのがあっちなんだろうね。」
「は、はぁ……。」
「カメラのことは後で俺が調べておくし、どういうアングルで映るかも教えてあげるから。安心して?」
「ありがとうございます。でも……。普通は、そういうことって事前に教えてくれるものですよね?なんで一切打ち合わせもないんでしょうか?」
「…………。この仕事の裏では、面白いことが大好きな、傍迷惑な人物が水面下で動いているんだよ。」
キョーコの素朴な疑問に答えた蓮。…その答えによって、ある方面においては劇的な天然と鈍感ぶりを発揮するくせに妙に勘がいい少女は、全てを理解したように頷いた。
「…あの方のお遊びでもあるわけですね。それは敦賀さん…ご愁傷様で。」
「…君もね。」
互いに合わせた視線の先にいる人物の目が語るは相手に対する同情。それを確認して二人は同時に溜息をついた。
「ところで、敦賀さん。私、こういうものをスタッフさんからいただいているのですが。一緒に確認をさせていただいてよろしいですか?」
「うん。…なるほど。『ルール説明』…ね。完全にスタッフとの打ち合わせはないってことだね、これは。」
キョーコが二人で並んで座るテーブルに出したものは真っ白な封筒に『ルール説明』と達筆で書かれたものだった。
「同居する方が来られたら開けるようにとの指示でしたので。それでは、失礼をさせていただきますね?」
「うん。」
キョーコは蓮に断りをいれると、のり付けされた封筒を丁寧に開封した。
「では、ルール説明を読み上げますね。『敦賀さん、京子さん、こんにちは。』こんにちは~。」
「こんにちは。」
「『このチャレンジは、1ヶ月1万円生活です。文字通り、お二人には1ヶ月を1万円で生活していただきます。』」
「確かに文字通りだね。」
「『ただし、二人で1万円生活というのは我々としても初めての取り組みです。ゲストがゴージャスター敦賀さんということもありますし、その辺を考慮した特別ルールを設けております。』」
「ははっ…。ゴージャスターって…。そんな大層なものじゃないのに…。」
「…敦賀さんのそもそもの問題は、その自覚のなさですよね…(ボソリ)。」
「うん?何か言ったかな?京子ちゃん。(キュラリ☆)」
「!?いっ、いえ、何もっ…!!(ヒィッ!?相変わらずの地獄耳っ!!)」
「『地獄耳』とか俺の悪口を心の中で言うのはいいから。続きをどうぞ?」
「はっはいっ!!(なんで心の中を読むの~!?)」
ぼそりと呟いた言葉を拾われ、恐れおののくキョーコの真横で、相変わらず麗しくも美しいキラキラフラッシュ入り似非紳士スマイルを浮かべる蓮。
……『二人の生活』、(キョーコにとって)前途多難……