かけがえのない日々~邂逅(1-1)~ | ななちのブログ

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このブログは、スキップビート好きの非公式2次小説作成SS中心です。作品については、あくまで個人の趣味で作成しています。
馬車馬のごとく働く社会人ですので、更新スピードは亀ですが、よろしければお読みください☆

 午後4時30分。夏が近づく季節は、陽が落ちる時間も遅くなりつつあり、まだまだ日中と変わらぬ日射しが世界を照らしていた。



「蓮。」

「はい、何ですか?社さん。」



 TBM。仕事柄よく来るテレビ局内を、無言のまま歩んでいた蓮を社が呼びとめる。振り返った先にいたマネージャーは、何かを言いたそうな表情をしていたが、蓮と目が合うと静かに首を振った。



「……いや。なんでもない。」

「…そうですか。」



 まるで諦めたかのように彼のマネージャーは微笑むと、再び歩き始めた蓮に続く。



「この後のスケジュールだけれど。今日はもうこれで『上がり』だからな。」

「……え?」



 今度は、蓮が歩みを止め、社を振り返る番だった。

スケジュール帳を片手に眼鏡を上げる彼のマネージャーは、平然とした表情を浮かべていた。



「何か、やりたいことはないのか?」

「…………。」



 社は、完全に歩みを止めた蓮を追い抜かし、パタン、と手帳を閉じる。



「勝手だと思ったが。…耐えられそうにないんだ、俺が。」

「社さん……。」

「ほら、歩け。お前が立ち止っていると、周りがすぐに騒がしくなるんだからな。小声で話をしているとはいえ、誰が聞き耳立てているかわかったもんじゃない。」



 手帳を鞄にしまい、蓮を振り返ることなく歩みだす社。その後を追い、蓮は彼の隣を歩く。

 そういえば。マネージャーとして傍にいてくれる彼の隣を、歩いたのはいつ以来だろう?ここ最近は、ただひたすらに『敦賀蓮』として仕事をこなすことだけを考え、その他のことを放棄していた。『敦賀蓮』として関係者と話をしている時や、カメラが回っている間のことしか正直記憶にない。



「お節介かとは思うが、あえて言わせてもらうぞ。もし、お前が『家』に一人で帰るのが嫌なら、俺が一緒に行ってやっても構わない。」

「…………。」

「俺にしてほしいことがあれば、なんでも言ってくれ。…別にそれがマネージャーの仕事外であっても、文句なんて言わないから。」



 社はキョーコが突き落とされ、記憶を失くして以来、二人の関係について何か口をだしてくることはなかった。キョーコの名前すら言葉にすることはなかったのだ。キョーコが退院をし、蓮と宝田邸のゲストハウスで同居を始めてからも、その状態は続いている。

…蓮とキョーコが同じ家で生活し始めて一週間。その経過も、その生活の様子も、社は一言も聞いてこなかった。

 ただ、黙って蓮について仕事をこなし、蓮を休ませ、蓮の代わりに共演者の相手をし、監督の相手をし、スポンサーの相手をしてくれていた。ただ黙々と蓮のマネージャーとして、それ以上の支え手として、傍にいてくれたのだ。



「社さん……。」

「ん?」

「ありがとう、ございます……。」



 ずっと。

思っていたことはあっただろう。蓮に尋ねたかったこと、言いたかったことがあっただろう。だが、社はただ傍にいてくれたのだ。ひたすら悩み、どうすることもできずに立ちつくす蓮の傍で、黙って支えてくれていた。








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