かけがえのない日々~欠けたモノ(1)~ | ななちのブログ

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このブログは、スキップビート好きの非公式2次小説作成SS中心です。作品については、あくまで個人の趣味で作成しています。
馬車馬のごとく働く社会人ですので、更新スピードは亀ですが、よろしければお読みください☆

 蓮が社にからかわれながらも病院へ向けての車内にいる頃。須永総合病院のある一室には1人の少女と初老の男が2人、そして壮年の男が1人いた。

 

「ってわけで、検査の結果、特に気になる点はない。いやぁ、嬢ちゃんは本当に丈夫だなぁ。」

「はい!!身体の丈夫さには自信があります!!」



 キョーコが目覚めてから再度検査をおこなった後、ローリィや椹に報告するために病室に戻り、一連の結果を伝え終えた須永。そんな須永にキョーコは元気よく返事をする。



「すみません、私が歩道橋から落ちるだなんて間抜けなことをしてしまったばっかりに…。しかも、社長さんや椹さんにもご迷惑をおかけしてしまったみたいで…。」

「いやいや、君は何も悪くないじゃないか。」

「そうだよ、最上さん!!どうして君が頭を下げる必要があるんだ?」



 「申し訳ございませんでした。」と深々と頭を下げるキョーコに、ローリィと椹がすぐさま頭をあげさせる。



「それにしても。どうして社長さんと椹さんがここにいらっしゃるんですか?あっ、もしかして落下した現場にたまたまいらっしゃったとか?」

「いや…。落下した現場にはいなかったんだが…。…そうだな、最上君は何も状況が分かっていないんだから、きちんと順を追って話す必要があるか…。」



 ただの事故では済まされない状況に陥っていることを、キョーコはまだ知らない。身に降りかかった災いと、想像以上に少女に執着し、依存している男の存在…そしてその存在が有名であるがゆえに起こりつつある騒動。当事者である少女はそれらを何一つ、理解していないのだ。



「今日はやめておこう。ゆっくり休んでほしい。…とはいえ、『あいつ』が帰ってくるだろうからそれどころじゃなくなるかもしれねぇがな。」

「…言っておくが、会うのは今日までだからな。もうそれ以降は許さねぇ。」

「分かっている!!…どうせあいつだって分刻みのスケジュールなんだ。どのみち通常の面会時間にここに来られるわけがねぇんだ。」



 どの事実も、未成年の少女の小さな肩にそのまま乗せてしまうには重すぎる荷物だった。さすがのローリィでも目覚めたばかりの彼女にさっそく話をする気にはなれない。…彼の隣に座り、若干青い顔色をしている椹にしても同じ気持ちであっただろう。



「…あ~。しかし、せっかくの大事な日だったってぇのに…。最上君、本当にすまない。」

「??あの…。大事な日…って……?」



 本来ならば、今日、蓮とキョーコの今までの関係は終わり、新たな二人の関係が始まるはずだったのだ。…だが、こうなった以上、ローリィは二人の関係の変化に異議を唱えなくてはならない。



「俺の信条に反するんだけれどなぁ…。…あ~~~、言いたくねぇ……。」



 は~~~~っと溜息を吐き、ローリィは心底悲しそうな表情を浮かべた。



「あの。ところで、今何時ですか?…なんだか外がやけに暗く見えるんですが……。」



 そんなローリィの心情を全く解していないキョーコは、落ち込むローリィから椹に視線を移し、尋ねる。



「…え?…あぁ…もうこんな時間か…。今ちょうど夜の10時だよ。」



 腕時計を確認して、椹は深い溜息をついた。

 キョーコが歩道橋から突き落とされてから様々なことがあった。あまりの目まぐるしい変化に、長年芸能界の裏側を支え続けてきた椹も何年か分の気力を使い果たしたような気にもなっていたし…一瞬のうちで時間が過ぎていったようにも感じていた。



「!!10時!?どっ、どうしよう……!!バイト先に謝りにいかなきゃ!!」



 キョーコはその椹の答えに目を見開いて驚き、勢いよく座っていた椅子から立ち上がる。だが、立ち上がるとともに頭を抱えて「いたたたた……」と再びしゃがみこんでしまった。



「おいおい、嬢ちゃん。無理は禁物だぜ?お前さんは今、安静にする必要がある。別にベッドに寝ていろとは言わねぇが、走ったりどなったり…。…あ~~。つまり、興奮するな?じっとしていろ。」



 説明が面倒臭くなったのか、キョーコの肩を優しく叩きながら適当な指導を入れる須永。



「でも!!先生!!私、今すぐ謝罪に行かなければバイトをクビにされてしまいます!!」



 「お仕事を無断で休むだなんて言語道断!!クビにされても文句は言えません!!」と声高に訴えるキョーコに、須永は「まぁ落ち着けや。」と言った後、ローリィに視線を向ける。



「大丈夫だ。俺の方から連絡を入れてあるから。気にしなくていい。」

「……え?」

「…まぁ、連絡を入れるまでもなかったようだがな。」



 電話で『だるまや』に連絡した時、既に店の主は静かな怒りの感情を表していた。寡黙で頑固であろう店主は、怒鳴りつけることはしなかったものの、ローリィからの謝罪の連絡をただ聞いていただけだった。…きっと、納得も、許しもしていないだろう。



「あの…。す、すみません…。そんなことまでしていただいて…。」



 その時、柄にもなく緊張してしまったことを思い出したローリィ。疲労感漂う息を零してしまったのだが、すぐに後悔することになる。

 目の前には、恐縮し、頭を深々とさげるキョーコがいたのだから。



「いっ、いや…。本当に君が謝る必要なんざどこにもねぇんだ。」

「でも…こんなご迷惑、おかけしてしまうだなんて…………。」



 そのままどこかに沈んでいってしまいそうなほどに落ち込む姿に、ローリィと椹は慌てふためく。



「いや、だから本当に君が謝る必要はないんだって…。」

「最上さん!!君は大事なうちのタレントなんだから!!確かに、社長が君の保護者ともいえる方々に直接電話するだなんて対応をとるのは異例の事態だが、今回には色々と複雑なことが絡んでいてね……!!」

「……。……椹さん、今、なんておっしゃいました?」



 椹は鬱々と沈没していきそうなキョーコに必死になって声をかける。そんな椹の発言に、キョーコは落ち込んだ表情のまま疑問を口にした。



「……え?いや、だから今回は異例の事態でね…。あぁ、そうか。そこのところは明日以降の説明か……。」



 何一つ知らないキョーコに説明することの難しさに椹は眉を顰め溜息をつく。



「いえ、そこではなく。その前です。」

「?俺が君の下宿先である『だるまや』に電話した件か?」

「いえ、その前。」



 キョーコはまるで喰いつくかのように社長と椹を交互に見ている。その視線には何やら激しい執念のようなものを感じた。…キョーコの背後に、この世のものではない物体が見えるように感じるのは気のせいだろうか…?



「……うちのタレント…って、ことか?」



 そのローリィの言葉に。…キョーコの背から、本格的に何かの物体が飛び出してきた気配を感じた。そしてキョーコが放つ何やら物騒なオーラに、椹は「ヒッ!!」と声を引き攣らせ、キョーコの傍で飄々と座っていた須永はキョーコから即座に離れ…喰らいつきそうな視線を向けられているローリィは背をのけぞらせた。



「失礼します。社長、お連れしましたが……。」



 キョーコが口を開き、何かを声に出す直前。扉をノックする音とともに、疲労感溢れる松島が入ってくる。その背後から、カツン…と靴音をさせて入ってきた人物に……



 キョーコの大きな瞳が、さらに見開かれた。






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