「…結局花火、全然見られませんでした……。」
「ごめん、ごめん。」
腕の中で「もごもご…」と何やら主張する彼女にやっと気付いて、腕を離したら花火はすっかり終わった後で。周囲にはもう誰もいなくなっていた。
「何しに来たんだかよくわかりません。」
「あはははは……。」
頬を膨らまし、眉を吊り上げて怒る最上さん。…うん、でも俺にとっては意味のある時間だったよ。
「大体途中から、敦賀さんったらバカップルの役まで始めるし!!」
「…え?」
「そりゃ、あんなにもバカップルが周りにいたら、真似てみたくなるのが役者魂というものかもしれませんが……!!誰にでもあんな破廉恥なマネをしていたら、勘違いされても知りませんよ!?」
「私だったからよかったものの…!!」と憤慨する彼女。そんな未だ『無防備全開』、『恋愛完全拒絶』の『天然記念物的乙女』に俺は……
「……はぁ~~~~~~……」
「っ!?えっ!?なっ、なんですか!?ダメ息ですか!?え、何がダメ!?」
「…あ~~…。先は長いなぁ……。」
さすがラブミー部員第一号。『禁断の果実』を半分食べたくらいでは、どうやら効果がないようだ。
「…うん、でも。俺だってそれなりに『魔法』が使えるわけだし。」
「?何かいいました?」
『コーン』は今でも彼女の涙を吸い取っている。それは、俺があの時かけた魔法の効力だよね?
―――どうか、泣かないで。笑っていて…―――
だったら、君にかかっているその『恋のできない』呪いだって、俺の魔法で解けるかもしれない。
「来年こそは、ちゃんと花火を見ようって言ったんだよ。」
「!!??見られなかったのは、敦賀さんのせいですよ!?」
「うん。だから、責任をとって来年も花火大会にご一緒します。…来年こそは、花火を見よう。」
笑顔でお誘いをかけると、彼女は俺を睨みつけた後、「嫌です!!」と言った。
「え?なんで?」
「敦賀さん、花火を見る邪魔ばっかりするから嫌です!!」
そう言って、小走りに俺から離れた彼女。振られてへこんだ俺は、…『コーン』を抱きしめながら零した彼女の言葉を、知らない。
「…これ以上、『邪法』をかけられてたまるもんですか……!!私は、もう『恋』なんて絶対にしないんだから!!」
さぁ、来年こそは、魔法使いから君の王子様へ。そして花火を見ながら君に魔法をかけよう。
永遠に解けない『恋の魔法』を。