「…あの~~…」
「あん!?」
そんな二人の間に、椹が控えめに割り込んだ。須永が怒りをそのままに椹を睨みつけると、「ヒッ!!」と中年男はすくみあがった。しかし、椹はゴクリと唾を飲み込むと、視線を頭を抱え込むローリィに向ける。
「…最上さんと蓮は、その……。いつの間に、付き合っていたんですか?」
「……はぁ!?」
ローリィへの質問に対して、ローリィから返事が来る前に、須永の大声が部屋中に響き渡る。
そして静まり返った部屋の中。ローリィがやっと顔をあげた。
「…おい、宝田。」
「付き合ってもいねぇ二人をどうやって別れさせんだよ。…できるわけねぇだろ?」
開き直ったかのように須永に応えるローリィ。その時、コンコンコン、とノックの音をさせてから松島が院長室へと入ってきた。
「おい、松島!!」
「!!はいっ!!」
疲れた表情で入室した松島は、須永の大声に姿勢を正す。
「お前はどうだ!?」
「え?なっ、何がですか?」
須永の突然の問いかけに、戸惑いの表情を浮かべながら三人に近づいて行く松島。
「だから!!坊主と嬢ちゃんが付き合っているって報告はあったのか!?」
「え!?あの二人、付き合っているんですか!?」
純粋な驚きの声と表情を浮かべる松島。そこに全くの嘘がないことが分かると、須永はギロリとローリィを睨みつけた。
「……あの二人は本当に今、なんでもねぇ関係なのか?」
「…関係は『事務所の先輩と後輩』だな。」
「最初に比べたらそれはもう仲良くなっているという印象はありますが…まさか蓮が最上さんを好きだったなんて全く気付きませんでした。」
「お、俺も気付きませんでした…。そもそも、蓮には仕事が分刻みで詰まっているような状況でしたし…女の子と付き合っているような時間があるとは思えません。」
完全に開き直ったローリィの言葉に、彼の部下達が続けてそれぞれの認識を述べる。
それらの言葉を聞いた後、須永は深い溜息を吐きだして、再び背もたれに身体を預けてしまった。
「なんでもねぇ関係だと…?それで、あの執着心っていうのはどうなんだ……。」
「あいつが一歩を踏み出せなかった理由があるんだ。…あいつはずっと、幸せになることを拒んできたんだから。」
犯した罪に、いまだ雁字搦めになっていた。それでも、『敦賀蓮』の奥にある『男』の瞳にも、幸せの兆しが射し込んでいたのだ。だが、それも一瞬の出来事で全てを破壊させられるような脆弱なものだった。
「…宝田。俺は『医者』として何があっても『患者』を守るつもりだ。…俺は今後、あの男を嬢ちゃんに近づかせる気はねぇ。入院している間、坊主が嬢ちゃんに会えるのは、今日までだと思え。」
「…………。」
返事をすることは、できなかった。だが、全員が見ることになったあの『狂気の男』。あの男に、『最上キョーコ』を差し出す気はさすがにおきない。
ローリィは大きな溜息を吐くと、再び瞳を閉ざした。