かけがえのない日々番外編~2人の儀式(前篇)~ | ななちのブログ

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 それはまだ、全てが動き出す前。愛を拒絶する三人娘の第1号は、穏やかな日々の中で、日ごとに襲い来る己の心の変化に怯えながら過ごしていた。彼女は悩み、苦しみながらも無意識下で『その日』に向けての心の準備を行っていた。

 …そして彼女はある日、決意を固める。



「ねぇ、モー子さん、天宮さん。」

「何よ。」

「なぁに?京子さん。」



 三人一緒のラブミー部の仕事を終え、キョーコの淹れた紅茶を片手にほっと一息を吐く面々。そんな穏やかな空気の中、キョーコは突然切り出した。



「私ね、多分もうすぐしたらラブミー部を卒業することになると思うの。」

「…え!?」



 そのキョーコの告白に、驚いたのは千織だけだった。奏江は落ち着き払ってハーブティーを口にしている。



「…好きな人が、できたの。だから、社長さんの許可を貰って、告白するつもり。」

「え?社長さんの許可??なんでそんなものが必要なの?ラブミー部なら必要になるわけ?」



 千織が動揺した声で質問する言葉に、キョーコは穏やかな笑みを浮かべ、首を横に振った。



「別に許可なんて必要ないと思うのよ?でも、私、『あの人』には深く関わりすぎちゃったと思うから…。だから、今まで築いてきた関係を壊す前に社長さんに伝えておこうと思って。」

「え…?京子さん、その『あの人』って、一体誰なの…?」



 千織の言葉に、キョーコは瞳を閉ざす。…この時、奏江もキョーコと共に瞳を閉じていたのだが、そのことには目を瞑ってしまったキョーコはもちろん、キョーコに集中していた千織も気づきはしなかった。



 …キョーコが口にする人物の名前。その名前は、当然『あの男』の名前なんだろう。



―――奏江の脳裏に浮かぶのは、蕩けるような微笑を浮かべる、実に幸せそうな男の姿だった―――









*****



「…いつもごめんねぇ、琴南さん。」

「いえ、別に。ここは私達だけの部屋ではありませんし。」



 奏江の目の前には、困ったように眉をさげながら微笑む眼鏡の青年がいる。



「いや、でも…なんか本当に…。…申し訳ない。」

「ブラックコーヒーがこんなに美味しいものだとは思いませんでした。…社さん、もう一杯、いかがですか?」



 社が深々と頭を下げている。その向かいに座ったまま、奏江はにこりと微笑んだ。



「…あぁ、本当においしいねぇ。…ブラックコーヒーが。」

「えぇ。砂糖やミルクなんて混ぜられたもんじゃないですよ。」



 ずずず…とまるでお茶を飲むようにマグカップに入れたコーヒーをすする二人。…そんな二人は、同時に少し離れた場所で向かい合わせに座る男女をちらりと視界に入れた。



「敦賀さん、そちらのおかずはどうですか?」

「うん、美味しいよ。最上さんの作るものは何でも美味しいからついつい食べ過ぎてしまうね。」 

「ん~…。…ちょっとは太られましたか?」

「クスクス…どうかな?」



 視界の中の二人は、女のほうはピンクの弁当箱を、男のほうは女より少し大き目の青い弁当箱を突きながら会話をしている。

 …それはもう、ピンク色と呼ぶしかない空気が二人を包みこんでいて、その様子を観察している社と奏江はひくりと口を歪ませた。…無糖のはずの口に含んだコーヒーが砂糖になり変ったのではないかと思うような甘い空気が口の中にも広がってくる…。それほどまでに周囲は極甘の世界だった。





「もう!!敦賀さん!!ご自分のことなんですよ!?そんな他人事みたいな口調で話さないでください!!」

「クスクス…ごめんね、最上さん…。」

「私の手料理なんかで本当に申し訳ないんですが、カロリーのこととか、栄養面のこととか、出来うる限り考えていますから。俳優兼モデルの『敦賀蓮』を維持するために、一緒に努力しましょう!!」

「うん、そうだね。…一緒に、ね。」



 途端に零れ出る笑みは、本当に幸せそうな、甘い表情で…。視線の先の人物をそれはもう蕩けるような視線で見つめている。



「…社さん、小耳に挟んだ情報なのですが。」

「なんですか、琴南さん…。」



 そんな二人を見ていた奏江は、同じく視線を二人に向けていた社に声をかける。



「敦賀さん、キョーコの手料理以外ほとんど食べなくなったそうですね…。」

「…そっ、そうなんだよ…。」

「…甘やかしすぎじゃないですか?」

「いや、でも食べる努力はしているみたいなんだよ…。でも、どうしても受け付けないようでさ…。その、気分が悪そうにしている姿を見ると、俺だって無理には言えないし…。」



 奏江は「ふぅ~~~~っ」と深い溜息を吐くと、再び二人に視線を向ける。



「ごちそうさま。美味しかったよ。」

「うふふ、お粗末様でした。…完食してくださってありがとうございます。」



 そこには、今まさに弁当を食べ終えた二人の姿が。にこにこと可愛らしい笑顔を浮かべるキョーコ。そんなキョーコを、眩しそうに目を細めながら見つめる蓮。



 そして、蓮はキョーコのほうへおもむろに右手を差し出す。

 キョーコはピコン、と一瞬だけその手に反応をしたが、黙って瞳を閉じた。




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