「…恋に焦がれて、鳴く蝉よりも…鳴かぬ蛍が、身を焦がす……」
そんな俺の耳に、彼女がそっと口にする。…その、言葉…。
「今度は、そんな恋をしようと思います。」
「…………。」
凛と響く、彼女の言葉。何かを強く決意するような、そんな響きを持つその声。
「…ふふふっ、ラブミー部の私が、何を言っているんでしょうね?」
淋しそうな、笑い声だった。…蛍が照らした俯いた彼女の表情は…切なげに、揺れていた。ふわりと灯る青い光が、悲しげに、でもどこか幸せそうに笑む、彼女を幻のように照らし出す…。
…誰を、想っているの…?今何を、考えている…?君をそんな表情にしているのは、一体誰…?
「最上さん…。」
「はい?」
そっと、君に手を伸ばす。…君を照らす、蛍達。君がその先に想う相手。それから君を奪うために。
「…………」
「つるが、さん……?」
触れた掌。小さな君の手は、俺の手にすっぽりと覆われてしまった。両の手を取ると、その手に祈るように額を押し付ける。
君を、想うよ。…君を強く強く望み、想う心は、きっと君を焦がす『蛍の想い』よりも強いはず。
「…………」
「…え?なんですか?敦賀さん。」
そっと囁いた言葉。でも、それは空気を振動させただけで、君の耳には入っていない。俺は、俺の言葉を促すために無防備にも近づいてきたその存在を、ぎゅっと抱きしめた。
「…………!!」
ビクリ、と震えた少女。俺に完全に身体を覆われて拘束されてしまう、そんなか弱い存在。そんな君を、怯えさせないように、優しく優しく自由を奪う。
…君を好きだと叫ぶ蝉よりも、静かに燃え上がる『想い』の炎を灯す蛍のほうが強い情を持っているというのなら…。
君は、知るべきだ。俺の想いを。…言葉にできないまま、狂おしいほどに昂る想いを。
「……つ、るが、さん……」
「………うん。」
どれほどの時間、俺は彼女を拘束していたのだろう。…早鐘を打つ胸の音を、君を求めて火照る身体を…君は、感じてくれただろうか…。
掠れた、俺を呼ぶ君の声。一度だけ俺の名を呼んだ彼女は、その両手をゆっくりと動かしだす。そして、俺の上着を恐る恐ると掴む……。
小刻みに震える君を…弱弱しく俺の上着を掴む少女を、俺は強く強く抱きしめた。華奢な身体を包む全身で、彼女を感じる。…彼女の胸も早鐘を打っている。すすり泣くかのような微かに漏れ聞こえる彼女の嗚咽は、俺の耳に心地よく響いて…。
燃え上がる気持ちが同じならば。身体を焼きつくすような、命さえも削るほどに昂る想いまでもが同じであるならば…。
いま、『言葉』はいらない。
静かに、熱を持たぬかのように光る蛍達。だが、その情熱は、沈黙の中で燻り続けている…。
誰かを求め、光る彼ら。…そんな彼らが舞い飛ぶ世界で。
俺達は無言のまま、互いの『想い』を手に入れた。