rainmanになるちょっと前の話。7



麗江(リージャン)は美しい街だった。旧市街は世界遺産にも登録されているだけあって、歩くだけで心が癒された。
水と緑の多い街で、水路には趣のある石の橋がいくつもかかり、石畳の敷かれた小道の両脇には土産物屋や料理店が並んだ。俺は一発でこの街を気に入ってしまった。



C君が「○○って宿が、評判いいみたいっすよ」と言うので、「じゃあそこに行ってみよう」ということになった。
旅をしていると色んな旅人が色んな情報をくれるので、ガイドブックを見るよりはるかに確実な宿情報が手に入る。


無事にその宿を見つけ、宿の門をくぐると、日当たりのいい中庭があった。
そこに猫と遊んでいる一人の男性がいた。


Nさんだった(笑)。


再会の握手。


Nさんは、俺の隣にいたC君を見て「お!大輔さんと会えたんですね。」と言った。
C君は「へへ。会っちゃいました。」と笑った。
「Nさんが俺のプレゼントした唄を本当に歌ってくれてるおかげで、いい出会いになりましたよ。ありがとう。」と俺も笑った。



さっそくNさんに、チベットを5人組で抜けたいと提案したら、「そういうことなら同行いたしましょう。」と言ってくれた。
一人旅の人たちはみんなほんとに話が早い。

これで5人のうち3人は揃った。


俺は、あと2人のうち1人は、カンボジアで会った19歳の若者「T」を誘おうと思っていた。
たしか彼もチベットに行くと言っていたから、そろそろ中国に入っているかもしれない。
俺はネットカフェに行きTにメールしてみた。Tからの返事は「もう少し麗江に着くまで時間がかかりそうですが、待っていてもらえるなら一緒に行きましょう」という答えだった。
宿に戻り、そのことをNさんとC君に相談したら「この街が気に入っているし、もうすこし滞在するつもりなので構いませんよ。その彼を待ちましょう」と言ってくれた。


残りの1人は、そのうち決まるだろう。この宿には他に日本人旅行者も多いし、ここに滞在しながらゆっくり探そう。そう思った。


この宿に滞在している旅行者は、20代から30代の若者で、一人旅だったり、女の子二人旅だったり、大学生だったり会社員だったり…様々だったが、みんな気さくでいい奴らだった。というか、旅してるやつで嫌な奴はほとんどいない。日常を離れて好きな場所に自分の足で立ってる奴にストレスなんてあるはずないのだ。


新参者の俺らともすぐに打ち解けてくれ、一緒にマージャンしにいったり(中国の牌で一度してみたかったのだ)、大人数で中華を喰いにいったりした(中華料理は大皿で出てくるので、一人で食べに行ってた時は一種類食べるのがやっとだったけど皆でいけば色々頼めるのだ!)。


あと、ここではrainmanのライブでは欠かせない曲「一休歌姫恋物語」のエビソードが出来た町だ。(※一休歌姫恋物語については、それだけでわりと長い物語なので以前書いた記事を貼っておきます。これすごい物語よ→ http://ameblo.jp/rainman2007/entry-10611262052.html  )




俺はC君と1つの部屋をシェアしてたんだけど、ある日部屋で酒を飲んでいるときに、俺は日本から持ってきたブルースハープを彼に見せた。
実は東京のある友人から「お守り代わりに…」と、旅立つ前に預かったブルースハープが、バックパックの底に眠っていたのだ。
そのブルースハープがここに来て陽の目を浴びるとは!!という思いだった。
俺は「これは10個の穴しか空いてない小さな楽器なんだけど、この10個の穴から無限に広がるメロディーが産まれるんだぜ。」と少し吹いて見せた。俺は、そこまでブルースハープが上手く吹けるというわけじゃないけど、高校生の頃からたまに吹いていたのだ。
そして今度はC君に持ってもらい、「俺がギターを弾くから適当に吹いたり吸ったりしてごらん。どこを吹いてもキーが同じならそれなりに音楽になるんだよ」と言って、ギターを弾いた。
C君は最初戸惑っていたけど、一緒に音を出しているうちに少しずつブルースハープの面白さに気付いていったようだった。



何日か経った日の午後。いつものように中庭でギターを弾いて歌っていると、サングラスにバンダナ、そして革ジャンに革靴、という珍しいいでたちの日本人男性がチェックインしてきた。なかなか見ないタイプの旅行者だなぁと思いながら俺は彼を横目で見ていた。


彼は部屋に荷物を置いた後、中庭に出てきた。
そして椅子に座りながら、なぜかずっと黙って俺を見ている。
サングラスなので表情がわからなかったけど、睨まれてるような気もした。
「どこかで会ったっけなぁ。見覚えが無いなぁ。なんか俺…気に触るようなことしたかなぁ」と思っていると、突然その彼は立ち上がって俺の前まで歩いてきた。


俺「な、なんでしょうか…」
彼「ダイスケって君やろ?」
俺「え!?? あ、そうですが、なぜ俺の名を…」
彼「◎◎さん知ってるやろ?あの人から頼まれたんだ。これを君に渡してほしいって」といって包み袋を俺に差し出した。

◎◎っていうのはBOSSの苗字だった!
そうか、この人は大理でBOSSに会って、あの時俺が受け取り損ねた土産をわざわざ届けてくれたのだ。

俺「どうもありがとう!まさかその為にここへ?」
彼「うん。麗江中のホテル探し回ったんだよ。さっきここの宿泊客名簿に君の名前を見つけたからチェックインしたんだ。ギターを持ってるって◎◎さんが言ってたから、もしかしたら君の事かなぁと思って見てたんだ」
なるほど、どおりでじっと見られてたわけだ。


しかし、渡し損ねた土産を人に託すBOSSも律儀だが、それを町中探し回って届けてくれるこの人も律儀だなぁ。


彼の名はK君と言った。俺と同じ歳だった。
フィリピンのマニラにまず降り立ち、それからマレー半島北上して中国雲南省に入ったらしい。服装と同じく珍しい旅の経路である(笑)。
絵と山が好きで、この後は絵でも描きながらヒマラヤを本格的にトレッキングするつもりだと言う。
サングラスを外すと意外とかわいい目をしていた(笑)。強面の外見とは裏腹に、話すと真面目で優しい関西人だった。
BOSSの繋いでくれた縁ということもあり、俺らはすぐに仲良くなった。


俺はK君に、チベット入りの5人メンバーをあと一人探してるんだけど…と誘った。
K君は「俺もちょうど探してたとこやねん」と言った。
よし!5人目決定。



そうこうしているうちに、やっと「T」が麗江入りして、この宿にやってきた!
「いやー、急がせて悪かったなT。おつかれさん!じゃあ早速、旅のメンバーを紹介します」と言って、俺はNさん・C君・K君を紹介した。

今思えば、19歳の彼にとって、新しい街に着いた途端、いきなりこんな変な日本人を何人も紹介されて「このメンバーで旅するから!」と言われ、テンション合わせるの大変だったろうな…と思う(笑)。


Tが到着して二日後、早速俺ら5人はチベット・ラサに向かうため麗江を出た。宿の仲間がバス停まで見送りに来てくれたりした。優しいなぁ。


まずはチベット自治区の入り口の町ゴルムドまでの長い旅が始まる。


この5人での移動が、THE JETLAG BAND!!!にとって大きな起点となっていくのだ。



続く。