03) ウボンラチャターニーの上弦月
03) ウボンラチャターニーの上弦月 Halfmoon in Ubon Ratchathani
Ait Aisia FD3322 便は、予定通りウボンラチャターニーへ到着する。
機中の一時間、Erika は間断なく話し続けた。
Air Asia の空港スタッフ、湘南台のラオス人の店、今朝の托鉢、サムイ島のゲストハウスでの正月、昨年の洪水.....
今日の朝、ヤソートーンへ一緒に行って、あなたを案内しようと考えました。
ヤソートーンへ同行する必然性を、淀みなく説明する。
話題は脈絡もなく移り変わり、一方的に話し続ける様子は2年前と変わらない。
化粧は濃く、服装は派手過ぎ、行動には一貫性がなく、誇大妄想とも取れる発言が聞かれる。
心配いりません。
私はワットに行って、白い服を着て泊まることが有ります。
躁状態への懸念を感じ取り、心配は要らないと説明する。
2年前にアユタヤで会った時にも、ワットに泊り込んで修行をしたことを説明してくれた。
白い僧衣の比丘尼のように数日間を過ごし、だいぶ平穏を取り戻すことが出来たと語った。
[内と外の境界が曖昧な部屋,ヤソートーン] (2012)
タラップを降りると、空港の照明の煌きの向こうに、幾分か膨らんだ上弦の月が見えた。
昔のアニメのオープニングで、上弦の月が目に変わるシーンを思い出す。
"風の匂いが今と違う 映画のような昔..... "
カルメン・マキ & Oz の古い歌を呟くと、熱帯特有の湿った甘い風がぬめるように通り抜けて行く。
熱帯の風を頬に感じて異国の煌きの中にいると、自我同一性の拡散が起こりそうな気がする。
行きましょう。
Erika から伝染したかのような観念奔逸は、Erika の一言で停止する。
Erika に手を引かれて、乗客の列に続いた。
⇒§04) ヤソートーンへの予期せぬ回り道
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