22) 白い僧衣の比丘尼
22) 白い僧衣の比丘尼 Like a Bhikkhuni in White Kasaya
Erika と NK は、すぐに打ち解けたようだ。Erika が一方的に話し続けることはなく、ゆっくりと優しい口調で話している。
二人の会話から、Erika は自身の変調を認識していることが分かった。Low は無く、常々 High へ傾いていること、時として大きく High へ振れることを認識していた。ある時期には、通院して処方薬を服用していたこと、アユタヤに来てから、ワットに泊り込みで修行をしたことを説明してくれた。白い僧衣を着て比丘尼のように数日間を過ごし、だいぶ平穏を取り戻すことが出来たと語った。Erika はその時のことを思い出したのだろうか、躁状態は幾分か収まっている。
「お姉さんはしっかりしているから、心配要らないと思う」 と NK は言う。私は、Erika の自己分析と改善への意思が分かって、少し安心した。NK に礼を言い、明朝にはバンコクへ向かうので、再会を期してここで別れを告げた。
[ワット・パナン・チューン] (2008)
Erika と私は、トゥクトゥクに乗って、アユタヤ島内・外のワットを何箇所か回った。
「横浜橋でイカを探したの覚えてる?」
「イカ? あのイカ、名前何でした?」
「松前イカだよ」
Erika は覚えていた。
「あの頃の、ブーツはどうしたの?」
「ブーツは有ります。コートと一緒に有りますよ」
タイでは身に付けることが無い皮のコートとブーツを、Erika は持っていた。
「私には、考えが有ります ... 」
トゥクトゥクがワット・パナン・チューンに到着して、この会話はここまでとなった。
本堂で、僧侶の前に二人並んで座り、読経とともに頭から水飛沫を掛けられる。
「お坊さんは分かりました」
何が分かったのかを聞いても、Erika はそれ以上語らない。Erika の信仰は篤い。それは語るべきことではないのだろう。
トゥクトゥクに乗って路地へと戻る途中、Erika はワット・パナン・チューンの赤い屋根が見えなくなっても、ワットの方へ手を合わせていた。その姿が白い僧衣の比丘尼に見えて、私も一緒に手を合わせた。
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