何回説明してもわかってもらえないこと
小周天修行においてポピュラーとされている伍柳派の修行法では、
まず最初に食事療法、長期の禁欲によって徹底的に「精力(後天の気)」
をひたすら貯め込みます。
そして、次の段階で「精力(後天の気)」を陽気に変化させます。
この陽気とは気が熱として感じられるようになった状態で、前回の
記事でも紹介しましたが、仙道研究家 高藤総一郎氏は
〈アイロンか何かのような熱い気の塊が出て、
それがボンボン震動する〉
〈陽気はものすごい勢いであちこち動きだし、最後に会陰に向かって
突進し、さらに尾間へと流れていく〉
と描写している位の勢いのあるエネルギーです。
それではどうやって「精力(後天の気)」を陽気に変化させるのか?
と言いますと、伍柳派では呼吸法と意識法を利用します。
まず最初に呼吸法についての説明します。
以下は高藤氏の著書「仙人になる法」からの抜粋です。
ほとんどの人は、呼吸法から入らないと陽気を回すことができない。
また呼吸法は、他の修行に比べると、初めは面倒だが、効果の面では
著しい。
それでも、呼吸法だけでは、速効は期待できないので、他の修行法と
併用すると、思ったより早く陽気が上がる。
この呼吸法の歴史は古く、荘子などには、動物の呼吸の仕方を真似て
修行している神仙家のことが出てくる。
なぜ呼吸法に目をつけたかというと、呼吸は、食事やセックスなどと違い、
一瞬でも止めたら生きていけないからだ。
それだけに、人間の生きる部分をコントロールしている自律神経系や
内分秘系と、もろにコンタクトができる。
このことを、行なっていくうちにつかんだかららしい。
確かに呼吸をコントロールしていくと、こうした部分の働きが高まって
いくのがわかる。
陽気も初めは、体の熱や筋肉との関係のほうが強いが、そのうちに呼吸
・ついで意識に従うようになる。
呼吸を通じて自律神経系や内分秘系をコントロールしていくという考えは、
現在では常識的になっていますが、本書が出版された30年以上前には
啓発的だったのではないでしょうか。
わたしは高藤氏の元弟子だった方数人から指導内容について話を聞いて
いるのですが、氏はかなり呼吸法を重視していたようです。
確かに呼吸法がプラスに作用することは確かなのですが、うまく行わないと
かえって行がおかしくなってしまいます。
わたしは今まで、長年呼吸法を続けていたために問題を起こした人たちを
多数目にしてきたので指導内容から呼吸法は除外しています。
(呼吸法による問題については以降の記事で説明します。)
しかし、高藤氏の呼吸法の解説は興味深いので著書「仙人瞑想法」から
紹介してみます。
氏はまず最初に呼吸法を行う前提条件として、瞑想法自体を表層瞑想法と
深層瞑想法の2種類に大別しています。
表層瞑想法とは、心理学でいう表層意識(つまり我々がいつも意識している
意識) を、この瞑想法でやっているとコントロールできるようになるところから、
このように名づけた。
他の瞑想法でいうアルファ波の見られる状態の瞑想と考えてもよい。
表層瞑想法の目的は、もつばら身体をリラックスさせ、本来もっていた
人聞の可能性を引ぎ出しやすくするところにある。
もっとも可能性といってもごく常識的な可能性で、深層瞑想法を完全に
マスターして得られる超感覚に比べると、問題にならない。
それでも頭をよくしたり、不眠症を治したり、疲れを簡単にとり去るくらいの
効果はある。
中でももっとも日常生活に役立つのは、ストレスからの解放で、これだけでも
充分、マスターする価値はある。
高藤氏は表層瞑想法の代表として「禅」をあげています。
続いて深層瞑想法についての説明文です。
表層瞑想法が、ごく常識的な意識や肉体の部分を開発する瞑想法だとすると、
深層瞑想法は、普通ではまずムリな部分が開発できる瞑想法ということになる。
今、日本にある瞑想法は、超越瞑想を除くとすべて表層瞑想法と同じ程度の
ものでしかない。
超越瞑想が深い段階のものを包むのは当然で深層膜想法と同じく、インドの
ヨガ(おそらくはサマーディヨガ)からきている。ただし、仙道とクシダリニー・ヨガの
よい点を組合わせてできている深層瞑想法に比べると、効果の点はともかく、
面白さの点ではるかに劣る。
深層瞑想法は、単に深層(潜在〉意識の開発ができるだけでなく、宇宙に満ちて
いるあらゆる波動を感覚として感じ、光として見、自分の表層意識・深層意識、
さらには常人では決して知り得ることのできない無意識の世界まで、いながらに
して旅することができる。
それも荒唐無稽な方法でなく、非常に合理的な生理学的方法を使って
できるのである。
この本の目的は、表層瞑想法よりむしろ、こちらの開発のほうに主眼が
おかれている。
以前の記事で、高藤氏が著書「仙道錬金術 房中の法」に熱を入れていたと
書きましたが、自らが開発した深層瞑想法を紹介している「仙人瞑想法」にも
かなりの思い入れがあるようです。
そのせいでしょうか、表層瞑想法を代表する「禅」に対する氏の評価は辛辣です。
「禅などを俗人の行とし、大周天を、神人の行とすれば、(小周天は)その中間に
あるといえる」
「自然界に存在する有形・無形のあらゆるものから気が発していることがわかり
だしたら、もう、肩肘を張って生きないですむ。
禅の坊主のように悟ろう悟ろうとしなくても、自然に悟る。」
「何十年もかかって、一つのチャクラでも目覚めればよいほうである。
下手すると一生かかっても何も見えない。禅が、これの典型的な行である。」
「禅の場合、性功(意識の鍛練)に関しては、満点である。
しかし、命功(気による肉体の鍛練)に関しては、ゼロ以下である。
一生かかっても、気が練れるどころか、つかむことさえできない。
精神の安定によりかろうじて肉体を長く保つだけである。
それゆえ、悟ってはいるが、この世界のこと以外、何も体で理解できない。」
こういった感じでぼろくそに言っています。
ただ、わたし自身は臨済宗の開祖、臨済義玄の言行録である「臨済録」がいずれ
このブログ記事で取り上げようと思っているくらい気に入っています。
ですから「禅には禅なりの良さがある。」と考えているのですが、高藤氏が言う
ように、表層瞑想法と深層瞑想法の間に大きな違いがあるのも事実です。
この違いについて考えてるといつも思い出す過去の受講者Mさんがいます。
今から20年ほど前に、「400戦無敗の男」「世界最強」と呼ばれた
ブラジリアン柔術家ヒクソン・グレイシーが日本で話題になったことが
ありました。
彼は1試合のファイトマネーが2億5000万円という、日本格闘技界では
破格の待遇(亀田興毅の世界タイトル戦で3000万円前後)を受けるほど
評価が高かったのですが、それには理由がありました。
試合の前に山籠もりを行い、独特な呼吸で内臓を動かしたり、自然の中で
瞑想するさまが宮本武蔵のような武道の達人を連想させて、日本人のツボに
はまったわけです。
〈ヒクソン・ グレイシーのトレーニング動画〉
その彼が「火の呼吸」と呼ばれる、クンダリニー・ヨーガの修行法を
ベースにした1分間に200回以上の呼吸を繰り返すトレ ーニング法が
話題になりました。
それをきっかけに日本でも「火の呼吸」を教える指導者が増えていった
のですが、もとがクンダリ二ーヨガから来ているもので、効果に
「クンダリ二ーの活性化」をあげるケースが出てきたわけです。
しかし、たびたびこのブログ記事でも触れていますが、クンダリ二ー
(先天の気)は呼吸法を行ったから覚醒するという単純なものでは
ありません。
わたしから見れば「火の呼吸」は後天の気(肉体的なパワー)を高める
効果が主体となります。
これは当たり前のことで、ヒクソン・グレイシーも別に神秘体験をするために
「火の呼吸」をしたわけではなかったと思います。
呼吸法を通して自律神経をコントロールして精神と肉体のバランスをとり、
試合に向けてコンディションを整えることが目的だったはずです。
しかし、一般の人はもちろんそんな違いなどわかりません。
受講者Mさんは、「火の呼吸」を行っている指導者のもとで瞑想を習っていた
のですが、気の感覚、神秘体験、開運等の効果が得られないという事で
わたしのもとを訪れました。
わたしがその「火の呼吸」の指導者の方の波動情報を読んでみると、禅のような
意識を無にする瞑想法を行っており、自分の脳波を深くすることで他人の意識に
アクセスして影響を与えることができるという能力の持ち主でした。
しかし、気脈は皮膚レベルくらいしか開いていないし、クンダリ二ーも覚醒して
いません。(これはあくまでわたしの基準で)
そこで彼との質疑応答がありました。、
わたし
「この人は瞑想の達人で立派な人格者だけど、クンダリ二ーは活性化して
いないよ。」
Mさん
「いえ、でも火の呼吸でクンダリ二ーが覚醒していると言ってますよ。」
わたし
「いや、それはわたしや他のサイキックが言うクンダリ二ーとは
違うんだよ。」
そして、Mさん自身を、わたしとその指導者、両方の波動に順に変化させて
みたのですが、本人は受講2回目で完全に気脈が開いておらず、おまけに
仕事がハードでストレスが溜まっていて波動の違いが分かりません。
Mさん
「(火の呼吸の指導者のもとで)瞑想を実践していても お金が入って
きません。」
わたし
「Mさんはその瞑想の先生の影響で悟りの波動になっているから、
お金儲けとは違う方向に向かっているんだよ。」
Mさん
「でも、先生はお金がありますよ。」
わたし
「その先生は家が資産家だってMさん自身が言ってたでしょ。」
「それに頭もいいんだよ。」
「鳩○由○夫みたいに、毎月ママから1500万円のお小遣いが
もらえるような身分の人は 友愛やら悟りやら、好きなこと言って
生きてりゃいいの。」
「でも、お金がない人間は頭使ってお金を稼ぐ方法を考えて
現実的な 努力を重ねないと、いつまでたってもお金持ちに
なんかなれないよ。」
Mさん
「でも先生と瞑想していると、心が落ち着いて安らぎます。」
わたし
「それならMさんはその先生のもとで修行した方がいいよ。」
「別にそんなにお金が無くたって、今の日本なら何とか食べていける
だろうし、Mさんが心やすらかに暮らせるなら、それが一番なんじゃ
ないかな。」
こんなやりとりがあってからMさんは来なくなりました。
(ヨガの先生のところに行ったんだなぁ。)と思いましたが、
それは本人の好みだから別にいいことです。
ただ、クンダリ二ー系の神秘行とそうでない修行法(禅など)の違い
だけは、何回説明しても、本人がクンダリ二ーを覚醒させないかぎり
わかってもらえません。
高藤氏もそういうじれったい体験を何度も重ねたため、辛辣な書き方に
なってしまったのではないでしょうか。
最後に蛇足ですが、ヒクソン・グレイシーは試合を重ねて巨額の
ファイトマネーを得たのですが、自らの女性問題を原因とした
奥さんとの不和に悩み、今は全財産を奥さんに譲り細々と暮らして
いるそうです。
400戦無敗の男の最強の敵は自分の奥さんだったわけです。
つづく
※次回の記事更新日は12月1日になります。

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