山上談義(第1回:常用漢字と当用漢字) | Prof_Hiroyukiの語学・検定・歴史談義

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(※この直後の平成22年4月17日、文化審議会の漢字小委員会で、新しい常用漢字は2136字とする、いわゆる「新常用漢字」最終案がまとめられた事に注意。『タイムリー』というべきでしょうか?)


先週、山上会館にて自分の所属する学会(の一つ)の総会が行われ、最後に懇親会が開かれました。

そこで知己のT先生を見かけ、「わざわざ東北からこんな場所に・・・」と思って声を掛けようとしたら人違い。


中部地方理科系大学の教員で、中国からの方でした。そうか・・・T先生って中国系の顔だったのか・・・などと勝手な思いを。

少々専門分野の話をして、それから漢字の話題に。さすがに日本語がお上手です。



Prof.R「日本では使える漢字が少なくて困っているのですよー。当たり前に講義で使っていた漢字を学生が知らない事がよくあります。」


Prof.H「常用漢字という語は御存じですか?」


R「知っています。日本では漢字の数を2000字ぐらいに制限しているのですよねー。」


H「正確には1945字(注:冒頭で述べた様に、2136字になる見通し)です。しかし、以前の当用漢字とは違ってそこまで強制的なものではありません。ただ、教育ではそれが基準になりますから、強制力が全く無い訳ではありません。」


R「当用漢字というのがあったのですねー。」


H「我が国が第2次世界大戦で敗れたあと、米国主導のGHQとやらに占領されました。占領政策の一環「日本語の簡素化」戦略として敗戦の翌年に定められたもので、高校卒業までのちょうど1850字です。1981年から常用漢字1945字になりましたが、私はそれ以前の小学3年生の段階で当用漢字はほぼ全て覚えましたので、常用漢字の世代ではあるのですが当用漢字という言葉の方に馴染みがあります。」


R「中国の小学生は1年生で538字(注:R先生はそう言われたが、省によって異なる)。それでは中国よりも早いペースになりますね!」


H「日本の小学1年生は僅か80字の学習と聞いているので、全然歯が立たないですね!道理で漢字ばっかりの『ドラえもん』が読める訳ですね。」


R「漢字しかないので仕方有りませんが、子供は記憶力が良いので必要ならすぐ覚えます。ところで、当用漢字は常用漢字とはどの様に違ったのですかー?」


H「例えば我々の科学技術用語で「輻射」というものが有ります。しかしながら、『輻』の字は当用漢字には含まれませんでした。」


R「で、どうなったのですかー?」


H「この様な場合、二つの選択肢があります。


一つはひらがな書きで、『ふく』がひらがなになります。私のお世話になった先生は授業はおろか解説でも「ふく射」を書かれていて、私には少々違和感が。


もう一つは代替字。その際に『輻』の代わりに『放』の字が当てられ、『放射』という用語が生まれました。」


R「その言葉、中国でも分かります。中国では輻射が標準ですが、そんな事情があったんですねー。」


H「逆輸入するぐらいの影響力を!で、話を続けますが、現在も輻の字は常用漢字には入っていません。しかし、輻の字を使ってはいけないというまでの拘束力を常用漢字は持たないので、私も堂々とこの字を著作に用いているのです。」


R「日本も不便な時代があったのですねー!そんな時代にいたら、私たち(中国人)はもっと不便でしたー。」


H「『輻』の字も、JIS第1水準3000字には入っていますので、ワードプロセッサーを用いる分にも苦労はありませんし。」


R「ワープロですぐに出てくる字ですか。日本語では常用漢字2000字ぐらいでは足りないけれど、3000字あればほぼ十分という事ですねー。」


H「それで間違いないと思います。中国ではどのくらいの漢字が使われるのですか。1万2千字ですか。」


R「それより少し少なくてもいいですが、まあそうです。どうしてその数字を?」


H「大きな漢和辞典の親字数から、そう思いました。でも、日本ではそれより遥かに少ない字数、JIS第2水準6000字強でさえも使いきれる人は皆無と言って良いでしょう。まだまだ私も新しい漢字を覚え続けますよ!」


R「ぜひ頑張って下さい。そして、今後ともよろしくお願いします。」