第2外国語への手引き(第2回:名詞の性1) | Prof_Hiroyukiの語学・検定・歴史談義

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第1外国語として英語を学んだ人が、ヨーロッパ系の言語を第2外国語として習得しようとした場合に「違和感の有る」点として、まず第1回(4/13) では、「綴り字記号」についてお話ししました。


今回はいままで触れて来なかった件、いえ触れるのを避けていた件についてのお話です!


印欧語族語に特徴的な文法的性質のうちで「英語には失われたもの」として、「格変化」「人称変化」(第2外国語のススメ第7回を参照の事) の他に「」があります。本来の印欧語では「男性」「女性」「中性」の三種類有ったはずなのですが、幾分統合されたりしています:


「男性」「女性」「中性」のまま・・・スラブ語派諸語(ロシア語など)、ドイツ語、アイスランド語など

「男性」「女性」の2種類・・・ロマンス諸語(但し、ルーマニア語を除く)など

「通性(男女差がなくなった性)」「中性」の2種類・・・スウェーデン語、オランダ語など

性別はほぼ消失・・・英語・ペルシア語・アルメリア語



”言語に「性」は必要なのか?”

という事を考える上で、英語において同様に消失した「格変化」「人称変化」との対比は重要です。


(1)格変化の消失→語順の固定

日本語では「私は彼にそれを言う。」であっても「それを彼に私は言う。」でも「彼にそれを私は言う。」でも問題はありません。いわゆる「てにをは」で各語の機能は明らかなので、動詞「言う」の位置が最後に来れば、多少の不自然さは有ってもおかしな文章とはならないのです。同様に、ドイツ語などの格変化の残る言語においても格変化で「てにをは」と同様の機能を持たせられるので、動詞の位置は別として語順はかなり自由です。

一方、英語・フランス語などの格変化・・・すなわち「てにをは」・・・をやめてしまった言語はそうはいきません。

「文中の位置」でその単語が「は」に当たるのか、「を」に当たるのかを示す必要があるのです。


(2)人称変化の消失→主語の明示

人称変化の残る言語では、主語に応じて動詞の語尾が変化します。これはすなわち、動詞さえ示しておけば主語の人称は分かる事を意味します。ですから、特に1・2人称の場合は主語を省略する事が可能です

(例)スペイン語:Aprendemos chino. = Nosotros aprendemos chino. (英 We study Chinese.)

フランス語(発音上はかなり人称変化が消えかかっている)・英語(代名詞といわゆる『三単現のs』以外は消滅)ではこの様な事は考えられません。むしろ、「主語を明示しなければならない」という拘束力の高いルールに縛られ、英語なら「非人称主語のit」、フランス語なら「非人称のil」という実質的な意味を持たないものを主語の座に持っていくことになります。

(例)It rains.(仏:Il pleut. スペイン語はLlueve.で済む。)


(3)性の消失→特に付加される制約なし!


これから見てわかる様に、格変化・人称変化にはその存在意義が明確である一方、性に関しては無くとも大きく困る事はありません。だからこそ、性の消失に関しては英語が例外的に獲得はしていない(即ち、他にも性の消失した言語が有る)という事になるのでしょう。


この観点からいえば、やはり「性」の持つ言語は持たない言語よりも単純に難しく、「女性」「男性」だけの言語よりも「男性」「中性」「女性」の区別を持つ言語の方が難しいと言えましょう。 (つづく)