いま話題の書『人口知能と経済の未来――2030年雇用大崩壊』(井上智洋、文春新書)を読了しました。
経済の視点から実にこのテーマに多角的に焦点を当て、私たちの疑問に実に総合的に答えてくれる本です。この問題は今後、経済学の最大の研究対象の一つとして浮上していくだろうと感じました。
私が考える、同書で書かれている大事なポイントは、以下のとおりです。
①2030年に第4次産業革命(汎用AI革命)が起きる。
②AIとロボットが労働を代替することで、2045年には全人口の1割程度(約1千万人)しか働かない社会になる。
③人間に残る仕事はクリエイティブ系(芸術家、作家、研究者等)、マネージメント系(経営者、工場・プロジェクト管理者等)、ホスピタリティ系(介護士、看護師、保育士、インストラクタ等)の3種類だけ。
④この大失業時代を乗り切るにはベーシック・インカムの早期導入しかない。
⑤失業が増えると否とに関わらず生産性向上のため国を挙げてAI研究開発に死力を尽くすべき。
人々が一律の生活費を政府からもらえるベーシック・インカム(BI)が導入できれば、それは大昔にマルクスが「将来は生産力が飛躍的に高まることで、人々の労働時間ははるかに短くなり、生まれた余暇は芸術や好きな趣味などをして暮らせる」と未来の共産主義社会を予見したわけですが、まさにそういう状態が到来することになり、本当に本当にそうなるなら、大変結構なことです。
しかし、本当にそうなるとは限りません。私が恐れるのは、「働かない人は存在価値が低いから、タダで食わせるべきではない」との資本主義的意見による抵抗が支配層から強く出てきて、失業者が増加する一方なのにBIがなかなか導入できない状態が続くことです。そうなれば、目も当てられないことになりますね。
1970年代に松本零士が『銀河鉄道999』の中で、一部の金持ちは機械の体を買い、圧倒的多数の貧乏人は生身の体で、迫害され、遊びのように撃ち殺されるという恐ろしい未来の社会を描写しましたが、悪いほうのシナリオは、もしかしたらあんな感じなのではないかと、そんな連想が脳裏をよぎってしまいました。
というわけで、私は今日より、完全にBI推進の考え方を持つようになりました。
遺伝子治療や臓器再生といった医療技術がこちらも劇的な進歩を遂げつつあり、人間の寿命は90年、100年と長くなる一方であると予測されていますので、『銀河鉄道999』の貧富の劇的格差ではないですが、その意味でも、進歩した技術の恩恵に全員が預かれるのかどうかという点が、ますます重要な問題になってきているようです。