花様年華(2000年 98分)

監督:ウォン・カーウァイ

出演:トニー・レオン、マギー・チャン


この前見た、ウォン・カーウァイのブエノスアイレスがとても好みのタイプの映画だったので、ブエノスアイレスの次作に当たる花様年華を見てた。

 

 

ウォン・カーウァイの映画ってロマンスを描くにも、恋する惑星のようにプラトニックな作品も多い印象だけれど(前作のブエノスアイレスは今まで見たウォン・カーウァイの中で一番愛情表現みたいなものが露骨に表れた一作だったけど)、今回もかなりプラトニック。というか、隣人同士の不倫の映画のはずなのに、ここまで何も起こらない映画は初めて見た。
時に募る思いを直接的に時に婉曲して描かれるのでふわふわした、かなりポエティックな仕上がりになっていて、どこか寓話的ですらある。

 

相変わらず主演のトニー・レオンは最高にかっこいい。今まで彼が出演している映画で駄作を見たことがない(そもそもそんなに数多く出演している映画を見ていないにしても)。抑制の効いた演技最高にハマってる。今回のトニー・レオンはどこか少年のようで、なんだか自分の学生時代なんかを思い出したりした(もちろんこんな最高にいい男ではないけど)。

 

今作もド直球なウォン・カーウァイ映画といった感じで、映像がもう美しすぎる。ストーリーは追わずに眺めているだけで一度目見たときは終わってしまった。
それでいて、演出や脚本もしっかりしているので、場面の転換や心情のちょっとした機微なんかも完璧なまでに表現されている。
今回はやや黄色がかった色彩に映画全体が包み込まれている。

 

一線を越えない彼らのメタファーとして、壁一枚で隔てられた二人のショットだったり、ガラス越しや水槽越し、鏡越しの、何か一枚隔たりのある中での二人を追う視点。こういうところなんかもめっちゃ巧い。最高かよ。

 

彼らが初めて会うシーンで雨宿りしている中で出会うっていうのは、過去作の天使の涙なんかを思い出したりした。この映画で雨が降るシーンは、何かしらの変化の予兆として描かれている。

 

トニー・レオンは新聞に掲載する小説をマギー・チャンと出会ってから書き始める設定なんだけど、不意に小説の中の登場人物を彼らが演じる瞬間がある。現実と現実と小説の世界が入り混じっていて幻想的な雰囲気をさらに加速させるんだけど、二人が離す言葉に感情が乗せられているのか、またこのシーンは果たして現実に起こったことなのか、そういった真相は

霧の中に消えてしまう。

 

take2を演じるシーン本当に好きだ。こういうこと実際にやってみたいよな。

 

毎回ウォン・カーウァイの映画って音楽が印象的にリフレインされることが多いんだけど、今回の使い方も実に映画的で最高だった。
恋する惑星ではthe mamas and papasのcalfornia dreamin'が印象的に使われていたように、今回はnat king coleのquizas, quizas, quizasが強烈に印象に残って頭から離れない。
他にも憂鬱なワルツが二人の未来を暗示していたりと、音楽の使い方も最高に上手いし、かっこいい(あと洒落てる)。

 

トニー・レオンが小説を書くために借りる部屋番号が、監督次回作で木村拓哉とトニー・レオンがW主演の2046だったり、関連を知っていればより楽しめる演出なんかも決して主張しないで置かれていたりして上品だ。

 

運命を逃してしまった男女の話ということで、対照的な作品だけどちょっと前に見たアデル、ブルーは熱い色なんかを思い出したりした。

 

この人の映画を見ていると、なんだか夏が恋しくなる。
春なんていらないから、早く夏のムードの中で溶けてしまいたい。

 

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