April(9) | My sweet home ~恋のカタチ。

My sweet home ~恋のカタチ。

せつなくてあったかい。
そんなラブストーリーがいっぱいの小説書いてます(^^)

設楽はただただ驚くばかりで言葉が出てこなかった。


「ま。 確かに。 奏の存在を知ってから、あたしに対する態度も変わったし。梓さんには気の毒だけど、そう思われてもしょうがないんじゃないの。 もし、本当にそうだとしたら。 こんな失礼なこと、ないよ。」


さくらは一気に攻め立てた。


「・・あのなあ、」


設楽は何かを言おうと思うのだが、それよりも


「彼女が必死に守って、必死に育ててきた息子だよ? 何言っとー、」


さくらは手酌で冷酒をグラスに注いだ。


出た。


博多弁・・


志藤はこの二人の間に入って何も言えずに目だけ動かしていた。


「そうじゃない!」


設楽が大きな声を出したので、お運びに来た仲居さんが驚いた。


「あ・・すみません、」


志藤が代わりに謝ってしまった。


「・・さくらには・・申し訳ないけど・・・。 梓と奏の存在が・・分かった今。 やっぱりあの二人のことが気になって・・さくらとはもう元には戻れない・・」


設楽は気持ちを抑えながら、そしてさくらに気を遣うように静かに言いなおした。


「あなたが欲しいのは。 奏じゃないの?」


動揺もせずにさくらは彼に言った。


設楽は一瞬押し黙ってしまった。


そして


「最初は。 梓には・・申し訳ない気持ちばっかりで。 再会したからと言って、昔のようにはなれないと思ってた。 子供のことは責任を取るつもりだったけれど・・、その時点ではさくらと一緒になる選択もアリなんじゃないかと思ってた。 ・・でも、」


設楽は迷いながら、そして言葉を選びながら話し始めた。


「なんだか。 自分でもよくわからないんだけど・・・この世界に自分の血を引いた子供がいるって・・考えただけで・・それが愛おしくてたまらなくなって。 普通は赤ん坊が生まれて、だんだんと父親の気持ちがわいてくるのかもしれないけれど・・」


設楽はあの真尋のワインバーでのライヴの時に外に走り出した奏を追いかけて改めて対面した時のことを何度も思い出していた。


何とも言えない不思議な気持ちで


いきなり自分の『息子』が中学生となって現れた時の衝撃と共に


彼の心に静かな変化をもたらしていた。



「・・おれが育てたわけじゃないのに。 こんなに大きくなって、なんて思ったり。 ピアノに打ち込む姿を見れば・・心から力になりたい、応援したいと思ったり。 こんな気持ちになったの・・初めてかもしれない、」


素を見せない男、と業界でも有名だった設楽が


間違いなく今、心からの思いを語っている。


志藤はじっと彼の話を聞いた。


さくらは、ひとつため息をついて


「・・奏がかわいいからって。 梓さんと一緒に暮らそうなんて。 失礼極まりないわよ、」


髪をそっとかきあげた。


「あなた自身が。 梓さんを必要としているのかどうかってことよ。 ・・自分だけじゃなくて、彼女や奏も不幸にするわよ、」


「・・さくら、」


「今の奏があるのは梓さんのおかげでしょ。 あの子が存在してるのは。 彼女が並々ならぬ苦労して、頑張った結果でしょ? その彼女に対する誠意はあるの? そんなハンパな気持ちで一緒に暮らそうなんて言ったら・・・あたしだって納得できない!」


さくらは胸がいっぱいになって


声が震えてしまった。





「奏、」


梓は仕事から帰ってきて、奏の部屋に入った。


「・・なに?」


振り向きもせずに宿題を続ける彼に


「・・ちょっと、いい?」


改まったような母の声にゆっくり振り返った。



設楽の揺れる思いをさくらはビシっと指摘します。 一方、梓は奏に…


ひなたと奏の出会いはこの辺からどうぞ→→→



人気ブログランキングへ


↑↑↑↑↑

読んでいただいてありがとうございました。よろしかったらポチお願いします!