徹夜で街をうろついて
その上
大泣きしてしまった拓馬は何だかどっと疲れて
そのまま畳の上に丸まって転がってしまった。
「仕事も行くんだろ? ご飯も食べなきゃ・・・」
母は時計を見た。
「・・・お母ちゃんは。 なんでオヤジと結婚したんだ?」
丸まりながら拓馬は母にそんな質問をしてしまった。
「はあ? なにその質問は・・・」
「あんな頑固で口下手で。 酒飲みで・・・・口より先に手が出るようなオヤジとさ、」
立ちあがりかけた母はまたそこに座って
「あたしが19のころ。 実家がね、建て増しすることになって。 そんときに来てた仕事師がお父ちゃんだったの。」
笑いながら思い出話をし始めた。
母の実家は芝にある老舗の煎餅屋だった。
母の母はうんと小さいころに亡くなって、母は小学生になった時にはひととおり家のことはできるようになっていた、といつも言っていた。
「あいさつしても黙~ってちょこっと会釈するくらいで。 なんだかぶっきらぼうな人だなって思ってた。 まあでも若かったけど仕事は正確でね。 他の仕事師さんとはよくおしゃべりもしたんだけど、あの人とは何カ月経っても一言も話しをしたことがなくてね、」
今の父と全く同じ印象だった。
拓馬は少し興味がわいて身体を起こした。
「ある日ね。 みんな引き揚げた後、お父ちゃんだけ忘れ物をしたって戻って来たのよ。 ちょうど夕飯時だったから父親が飯を食っていけって勧めて。 だまーって茶の間に上がってきたわよ、」
思い出したのか母はおかしそうに笑い始めた。
「もちろんあたしが全部支度したもんだったんだけど、お父ちゃんてば、だまーって食べ始めたわりにごはんのおかわりを3杯もしたのよ。 みんな呆れちゃってね。 そんで、父親が酒を勧めたんだけど・・・最初は断ってたの。 でも、なんだかんだで断りきれなくなって呑んじゃったんだよ。 そしたら・・・・・」
母の話に食いついてしまった。
「まあ、人が変わるってこういうことなんだって思うくらい。 もう兄貴たちとも意気投合しちゃって宴会になっちゃってさ。 よくしゃべるわ、笑うわ。 もうびっくりして。」
「へえええ・・・。」
確かに今の父も酒が入ると急に機嫌が良くなって、飲み屋で知り合った全然知らない人間を家に泊めたりもよくあった。
「そんでね。 酔った勢いで、『あんたの作るメシはうまい!! おれがいつも行ってる食堂よりうまい!』って言ってくれて。 ものすごく褒めてくれたんだよ、」
「それで。 惚れちゃったの?」
さっきまで大泣きしていたことがウソのように拓馬は目を輝かせて聞いてきた。
「え~? そのときは・・別に。 ただ、普段とのギャップがすごくて・・すっごく印象に残ったけど、」
母は店の看板娘だった(自称)というほど、近所で評判の器量よしだったらしい。
3人の男に結婚を申し込まれたことがある、といつも自慢をしていた。
まあ確かに。
昔の写真を見ると、ほんと今のゆうこにそっくりで
昔風のいい女
ってトコだろうか・・・・
そんなことを思ったりもした。
「ま、それから・・・なんだかウチに入り浸ることになっちゃってね。 ウチの父親も気に入ってたし、」
母は懐かしそうに宙を見上げた。
一転して父と母の馴れ初めに興味津々の拓馬でしたが・・・
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