いったいどのくらいの時間その梅の花の作品の前で過ごしてしまっただろう。
拓馬は周囲の雑踏も何も聴こえなかった。
「・・・拓馬さん・・・」
それなのにその声はすっと耳に入って来た。
ゆっくりと振り返る。
詩織が微笑むような、ちょっと泣き出しそうな顔で立っていた。
彼女に初めて会った時と同じ
淡いさくら色の着物姿で。
あの時と変わらず、透明感があって清楚で
そして
美しかった。
「・・しーちゃん、」
会って何を言おうかなんて考えてなかった。
言葉が出てこないほど胸がいっぱいだった。
詩織も同じだった。
まさかここに拓馬が来るなんて思いもせずに。
「・・・これは。 しーちゃんの作品だよね、」
ようやく拓馬は言葉を発することができた。
詩織は黙って頷いた。
この作品はオブジェ的に作られたもので、制作者の名前がついていなかった。
しかし
一目見ただけで拓馬はこれが彼女の作品だとわかった。
「・・・梅が。 もう咲いているなんて。 びっくりした、」
「早咲きの梅で。 『冬至梅』と言います。 ・・・・仕事で行った大分の知り合いのお宅に木があって、どうしても活けたくて無理を言って譲っていただきました。 この作品展に咲くように部屋を温度調節して。 きちんときれいに咲いてくれて、よかったです、」
いつものようにはにかんで恥ずかしそうに笑った。
「この器も。 しーちゃんだよね、」
その大きな花器を指差した。
詩織はぱあっと明るい表情になり
「大きな作品だったので、少し先生に手伝って頂いたんですけど。 こんなに大きなものを作ったのは初めてだったので・・・。 でも、すごく満足できるものができたって思っています、」
嬉しそうに彼を見た。
まったく変わらないこの彼の感性が
嬉しかった。
そして
「・・・あの・・・」
詩織は拓馬に聞きたいことがたくさんあった。
思い切って声をかけると
「詩織さん、ちょっといいですか。」
スタッフから声がかけられる。
「あ・・・はい、えっと・・・」
今ここでこの場を離れたら二度と拓馬に会えない気がした。
戸惑う彼女に
「・・・最後まで。 いるよ、」
拓馬は優しく笑った。
詩織はその言葉でホッとしたように頷いた。
久しぶりの再会でした。 それでもなにひとつ変わっていない自分の大好きな彼女の感性に拓馬は感動し…
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