「いけないってナニ?」
南は自分の意見が全否定されたようで、ムッとして言い返した。
「おれはその時の彼の様子は知りません。 かなり壮絶な毎日であったことは話で聞きましたけど。 だけど、いつまでも腫れ物に触るような扱いをしていては。 彼のためにならない、」
斯波は一転してきっぱりと言った。
「彼はオリジナルのCDを発売させて、全国ツアーをやろうだなんてアホなこと言ってましたけど。 すごくピアノに対しての情熱が戻っていることを感じました。 志藤さんが作曲の仕事を勧めたことがいい方向に向いていったんじゃないかと思います。 シェーンベルグの最期の弟子という重い看板を背負ってしまいましたが、おれは彼らしくやっていくことが一番だと思います。 こうしてありがたいことに海外の有名オケからのオファーがたくさん来ている。 これが全てを物語っているんじゃないでしょうか、」
理路整然と
まだここに来てわずかだというのに真尋の全てがわかっているかのように
冷静に考えている彼に志藤は彼の懐の深さを思い知る。
「おれも。 真尋にこれからどういう仕事が相応しいのか。 臆病に考えすぎてたのかもしれへんな、」
そして、小さく息をついて苦笑いをした。
「今後の真尋のプロデュースは自分の名前を使っても構わないから、とおれに託してくれたシェーンベルグ先生の遺志に沿おうとばかり考えて。 真尋のいいトコ失くしてしまったら元も子もないもんな。 そんなん先生も望んでへん。」
「志藤ちゃん・・」
南も神妙になった。
「たぶん。 あなたが思うよりもあいつは気持ちが強い。 そのくらいの精神力がないと、一流にはなれない。」
斯波は南に力を込めてそう言った。
南はしばしじーっと彼を見つめた後
「・・え、めっちゃカッコイイ・・・。 ホレちゃいそう、」
などといきなり言いだした。
「はっ・・・・!????」
斯波は思わず椅子からコケそうになるほど焦った。
「ね、めっちゃカッコイイと思わへん? ほんまに真尋のこと考えてくれてる~~~って。 なんかあたしジーンとしちゃった、」
南は胸に手を充てて志藤に同意を求めた。
「おれは別にそうは思わへんけど???」
なんだか悔しくなって志藤は強がってそう言った。
「や、ほんま。 見た目もいい男やし。 気持ちも熱いし。 来てもらってよかったや~~ん、」
南は調子よく斯波の肩を叩いた。
「おまえ・・・。 この前までウチに合わないんちゃうんか~とか文句タラタラやったやんか、」
志藤は呆れて言った。
「・・・・これから外出ですから・・・」
斯波は耳まで真っ赤にして慌ててその場を去ってしまった。
「あんな強面なのに。 純情なトコも女心くすぐる~~~。」
南はボソっと言った。
「アホか、」
志藤は笑ってしまった。
それから
斯波は南からわかりやすく遠ざかるようになってしまった。
「じゃあ。 これは南さんにお願いしておいたらどうでしょう。 今週いっぱいまではいるって言ってたし、」
玉田と打ち合わせ中、彼から書類を手渡された。
「え・・・。」
斯波は少しためらったあと、
「・・・渡しておいてくれる? 彼女に、」
それを突き返すように言った。
「・・・はあ・・。」
玉田は怪訝そうな顔をして、小さく頷いた。
斯波ちゃん、ミョーに南を意識し始めたようですが・・・
↑↑↑↑↑↑
読んで頂いてありがとうございました。
ポチっ! お願いします!
人気ブログランキングへ
携帯の方はコチラからお願いします