Danke~ありがとう(16) | My sweet home ~恋のカタチ。

My sweet home ~恋のカタチ。

せつなくてあったかい。
そんなラブストーリーがいっぱいの小説書いてます(^^)

斯波は外回りで8時ごろ帰社した。


誰もいなくなった事業部に志藤だけが残って仕事をしていた。



「ああ、お疲れ、」


と声をかけるが


いつものように黙って会釈をするだけだった。



以前の上司の『クラシックマスター』の編集長によると



とにかく真面目な男で


音楽以外の趣味はなく、無口で何を考えているかわからない。



だけど、音楽に関することだけはホンモノだ。




志藤が受けた彼の印象はまさにそのままだった。



「さっき。 真尋のトコ電話したら。 ・・・子供が熱出しちゃって大変だって言ってた、」



何気なく絵梨沙を庇うことを言った。



すると



「ああ・・・そうだと思いました。」


彼から意外な言葉が返って来た。


「知ってたの?」


「今日、彼女が練習場に来た時。 合間になるたびにどこかに電話をしているようでした。 ・・たぶん子供のことかと思っていました。」



正直、そんな繊細さが彼にあると思わなかったので


志藤は驚いた。




「・・・おれは別に子供がいるわけでもないからわかんないですけど。 仕事をする気になったのであれば。 やっぱりそれが1番でないといけないんです。 彼女は一度逃げ出しています。 自分の弱さも全部わかっていると思うけれど、やっぱりまだどこかで甘えている。 自分ができる範囲のことだけすればいいと、どこかで思っている・・」



志藤は黙って彼の言葉を聞いた。




「沢藤絵梨沙は・・・本当に素晴らしいピアニストでした。 彼女に図太い神経があったら。 今も世界中を駆け回るピアニストになっていたでしょう。 日本でジュニアのコンクールを総なめにしていた頃の彼女のピアノは華やかで大胆で本当に巧くて。 でも・・・どこか無機質さを感じるところがあった。 今の彼女のピアノには『表情』がある。 彼女が乗り越えた壁はムダではないことを、頑張って示して欲しかっただけです、」




この男がこんなにしゃべっているのも初めて見た。



しかも。


絵梨沙のこともよくわかっているようで。



斯波はまたいつものように黙ってデスクについて、やおら書き物を始めた。




竜生の熱は下がっていた。


機嫌も良くなってよく眠れるようになったようだった。



「よかった・・」



絵梨沙は眠っている竜生の頭を撫でた。



「ほんと。 子供が熱を出すと慌てちゃうわよね。 ・・・うちは真太郎が赤ちゃんの頃から身体が弱くて。 しょっちゅう入院してたりしたから。 大変だった。 心配でお手伝いさんにも任せていられなくなって、仕事やめちゃったから。」


看病をしてくれていた義母ゆかりは笑った。



「・・仕事をしながら子供を育てるって大変ですね、」


絵梨沙はつくづく言った。



「ほんとは。 みんなお母さんは子供に1日中ついていてあげたいわよ。 だけど・・・仕事だってしなくちゃならない。 でもね。 ちゃーんと子供のことを考えてあげていれば、大きくなって親を恨むなんてことないわよ。」


義母の言葉が胸にしみた。



「ま、ウチはその代わり。 真尋も真緒もすっごく丈夫で。 心配かけなかったから。 親孝行よね、」


その明るい笑顔につられるように絵梨沙もようやく笑顔を見せた。




斯波は絵梨沙のことをとても深く考えていたようでした・・・



人気ブログランキングへ


↑↑↑↑↑↑


読んで頂いてありがとうございました。

ポチっ!わんわん お願いします!


人気ブログランキングへ 左矢印 携帯の方はコチラからお願いしますドキドキ


My sweet home ~恋のカタチ。