竜生が3ヶ月になるのを待って、真尋一家が帰国したのは12月の下旬だった。
「竜生~~~。 もうほんっとエリちゃんにそっくり!!」
自宅が改築中のため、近所のマンションに住んでいる母・ゆかりは竜生を見てもう我を失うほど喜んだ。
「ほんと。 同じくらいの月齢の子と比べても竜生は大きくて。 もう抱っこがたいへんです、」
絵梨沙は笑った。
もう竜生は首が据わっていて、きょろきょろと辺りを見回していた。
「もう目も見えるみたい。 ほんとかわいいわね~~~。」
母はもう初孫の竜生がかわいくて手放せないようだった。
「あんたもおばあちゃんだろ、」
真尋は笑った。
「もうおばあちゃんでも何でもいいわよ。 あなたたちのマンションもここの1階下になってるから。 いつでも竜生の面倒は見れるわよ!」
ゆかりは張り切った。
「志藤さんにピアノスタジオも借りていただいて、」
絵梨沙は言った。
「まあ。少しゆっくりするといいわ。 せっかく帰って来たんですもの・・」
ゆかりは南から二人がウイーンでたいへんな思いをして暮らしていたことは聞いていたので
優しくそう言ってやった。
家のものはゆかりが用意してくれていたので、すぐに生活も充分にできた。
真尋はピアノに触れることなく、気が済むまで寝たり漫画を読んだりという毎日を続けた。
「絵梨沙~~~。 竜生が泣いてる~~、」
「えー?」
掃除中に呼ばれて顔を出す。
「もうすぐ終わるからちょっと抱っこしてあげて、」
「えー? 無理~。 なんかまだくたくたで抱っこしずらいしー・・・。」
「もう! 少しは面倒みてよ・・。 竜生とお留守番くらいしてもらわないと。 おつかいにも行けないじゃない・・」
真尋は仕方なく泣いている竜生を抱っこした。
「もー・・泣くなよ~~。 おれおっぱい出ねえんだからさ~~~。」
慣れない手つきで竜生をあやす彼を見て
絵梨沙はようやく普通の家庭の生活ができることの幸せを感じていた。
帰国して3日後、もう年末で仕事納めだったが
絵梨沙は竜生を義母に頼んで会社に出かけた。
「なんやも~。 呼んでくれたらいつでも行くのに、」
志藤は笑った。
「いえ・・今日はお忙しいでしょうし、」
「竜生は?」
「お義母さんが。 本当にもうかわいくってしょうがないって言ってくれて、」
「そやろな~。 初孫やし。 あのくらいが一番カワイイって。 子供もなんかしらんけどすぐに大きくなってな。もうひなたなんか『パパ、てをあらわなくちゃだめでしょ~?』とか説教してくるし。」
志藤は座ってタバコに火をつけた。
「今日は・・・お願いがあって・・・」
絵梨沙はうつむいて言いずらそうに切り出した。
「え?」
「・・あたし・・・。勝手にピアノを投げ出して。 事業部のみなさんにも本当に迷惑を掛けてしまって。 今さらこんなこと言えるような立場じゃないんですけど、」
ハンカチを手にしてもじもじとする彼女に
「え、なに? そんなんもう気にしなくてもいいから言うてみて、」
志藤は優しく言った。
「・・・あたしに。 仕事をさせていただけませんか、」
絵梨沙は顔を上げて思い切ってそう言った。
一度は第一線から退いた絵梨沙は覚悟をして志藤の下を訪れました・・・
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