「え? リュウセイ???」
真尋は寝ぼけたような顔でそう聞き返した。
「うん・・・。 竜が生まれるって書いて『竜生』。 どうかな・・?」
絵梨沙は真尋のスタジオまで行って、寝ていた彼を起こしてそう言った。
まだ頭が全然働いていないと思われる彼は
じーっとタバコを吸いながら天井を見つめたまま固まった。
「え、ダメ?」
そのリアクションに絵梨沙は不安になって顔を覗き込んだ。
真尋は疲れた笑顔で
「ん。 いいんじゃない? カッコいいし。 男っぽくて、」
と言った。
「真剣に考えてあげなさいよ・・・、もー。」
南はそばで聞いていていらついた。
「考えてるよ。 でもー。 いいじゃん、いい名前だし、」
ぷか~っと煙を吐いた。
「でも。 なんで『竜生』なの?」
南が聞くと
「・・シェーンベルグ先生がね、」
絵梨沙が彼の名を出すと真尋はのっそりと起き上った。
「真尋がピアノを弾いてる姿を見て。 『竜が生まれるみたいだ』って。 すごいエネルギーを感じるって・・」
絵梨沙が彼のその言葉を聞いてわが子に名前をつけたことを知った真尋は急にうつむいて黙りこくってしまった。
今は
カタリナとカタリナの母がシェーンベルグの面倒を交代で見ているが
真尋は彼ら家族以上に病院との往復の面倒を見ていた。
もうそうしなければ気が済まなかった。
「そっか。 めっちゃ・・いい名前やな。 赤ちゃんも一緒に頑張ってきたんやもんな、」
南は絵梨沙のその思いに感動した。
「で。 赤ちゃんはオーストリア人になっちゃうの??」
真尋に聞くと
「え・・しらね・・・」
親のくせにあまりに無責任な答えが返ってきた。
「え~~、なにそれ。 ちゃんと考えないとアカンやん、」
南は彼の背中を叩いた。
「どっちでもいいじゃん。 別に・・」
あくまで細かいことを気にしない彼に
「オーストリアは両親の国籍に準ずるんで。 『日本人』になります。」
絵梨沙は笑ってフォローした。
「あーそうなんだ、」
真尋は他人事のように頷いた。
「ほんまにも~~~。 心配やな、」
南は腕組みをした。
少しだけ
真尋に笑顔が戻った。
母の真理子は1週間ほど滞在して、後ろ髪を惹かれるように帰国した。
絵梨沙は南の助けを借りながらも、生まれたばかりの竜生の世話に明け暮れる。
思うように真尋の様子を伺いに行けずに、心配でたまらない。
そんなころ。
いよいよオケとの練習が始まった。
赤ちゃんの名前は『竜生』に決まりました。そして真尋はいよいよオケとの練習に入ります・・・
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