「おれ。 ジイさんを家まで送っていくから。 先帰ってて。」
真尋はシェーンベルグを抱えるようにして絵梨沙に言った。
「・・うん、」
「わしは大丈夫だというのに、」
まだ強がっていた彼だったが
「だからさ。 こんくらいは素直にさせろって・・・。 明日も病院だろ? おれが車で送るから、」
「おまえは練習だけしていればいいんだ、」
文句を言いながらもシェーンベルグは真尋に支えられながら帰って行った。
「・・大変やな、」
南は彼らの後姿を見ながらボソっと言った。
「真尋・・先生に急に何かあるといけないって・・。 車も買っちゃったんです。 中古だけど、」
絵梨沙はフッと笑った。
「あんなに厳しいこと言われても、ジッと耐えてる真尋を見てると。 ほんまに先生のことを信頼してるんやなって。 大事にしていることもわかる、」
「・・先生が少しずつ弱ってるのを真尋もわかっているんです。 今は・・・少しでも先生のピアノを身体に叩き込みたいって思っているんだと思います、」
何だかしんみりしてしまった。
南は元気を出して
「ね。 赤ちゃんのもの。 もう揃えた? 一緒に買い物に行こうよ! もうそろそろちゃんと仕度しなくちゃ、」
と明るく言った。
「え・・でもまだ3ヶ月くらいあるし、」
「赤ちゃんのもの買うのって楽しいやん。 あたしは子供がいないけど、ゆうこの子供たちに色々買ってあげるの楽しかった~~~。 真尋とエリちゃんの赤ちゃんやもん。 あたしもめっちゃ楽しみやし、嬉しいし、」
その明るさにつられて
「・・ハイ、」
絵梨沙も笑顔で頷いた。
「男の子かな、女の子かな、」
ベビー服を買いに来て、南は絵梨沙に言った。
「わかりませんけど。 どっちでもいいです。」
絵梨沙は嬉しそうにかわいいベビー服を手にした。
こうして子供のことを考える暇もなく
真尋の心配ばかりして。
絵梨沙はつくづくそう思ってしまった。
もっと
生まれてくるこの命を慈しまなくてはいけないのに
そんな自分を少し責めてしまった。
「きっと。 エリちゃんに似たらかわいーコやし。 真尋に似たら・・・ま。 ちょっと気の毒やけどな、」
南の冗談にも素直に笑うことができた。
「最近すっごく元気に動くんです。 男の子かもしれません。」
「男の子か~~~。 ほんま、もう今からめっちゃ楽しみ!」
ずっと塞ぐ気持ちで過ごしてきたけれど、確かにこうしてまだ見ぬ赤ちゃんのことを思うと心が弾む。
「そうだ! 真尋から聞いた? 今ね、北都邸改築してんだよ。」
「え、ほんとですか?」
「もう古いからって。 んで。 あたしたちが日本に帰ったら一緒に住めるように、ちっさいマンションみたいに。 でね。 真尋とエリちゃんのおうちも一緒に作るんだよ~~。」
「あたしたちの家も?」
「そーなの! まあ、エリちゃんたちは日本にいることはあんまりないと思うけど。 帰って来た時に一緒に住めるようにって。 世帯別にちゃんと作るからプライバシーもばっちりやし。 なんか大家族みたいであたしはすっごい嬉しいんやけど、」
絵梨沙はその話に目を輝かせて
「嬉しいです・・・。 あたしもずっと母と二人きりで暮らしてきてたくさんの家族と一緒に住むのに憧れてたし・・・。」
と嬉しそうに言った。
「だから。 なんも心配することないよ。 あたしはいつでもエリちゃんの力になるから、」
南は絵梨沙の腕を取ってはしゃいでそう言った。
真尋と出会う前のあたしが
どれだけ寂しかったか
北都家の人達と触れ合うようになってつくづくそう思う。
絵梨沙は家族の温かさを思い知っていた。
悲壮感漂う空気の中、南は一生懸命に絵梨沙を励まします。
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