絵梨沙は退院したものの
何だかガクっと体力が落ちてしまったようで、大きくなったおなかを抱えてイスから立ち上がるのもしんどくなっていた。
真尋からは自分のことには構わないように、と言われていたけれど
やっぱり心配で家でジッとしているのがつらい。
そんなとき。
「・・南さん・・・」
突然やって来た南に絵梨沙は驚いた。
「わ~~~、もうめっちゃおなか大きくなったやん・・。 ほんまにもうすぐやなあ、」
南はいつものように明るく言った。
「・・どう、したんですか。」
「どうって。 真尋から電話もらって。」
南は彼らの部屋に上がって荷物を置いて言った。
「真尋から・・・?」
「しばらく。 絵梨沙を見ていてくれないかって、」
「え・・・」
「貧血で倒れたんやろ? ほんまムリしたらアカン。 沢藤先生にも心配かけたらアカンし、あたしはほら。 今はヒマやから。 真太郎も行ってやってくれって言うし、」
「でも・・・」
南は大きなスーツケースを持ってやってきていた。
「しんどい時はな。 助け合うのが家族やろ? あたしたち、家族やん。」
南は屈託ない笑顔で絵梨沙を見た。
「南さん・・・」
胸がきゅんとなった。
「真尋は詳しいことは話してくれへんかったけど。 ・・大変なんやなあって思ったから。 真尋のことやからピアノのことになると周りも省みないやろし。 大変なのはエリちゃんやん。 とにかく赤ちゃんが無事生まれるように、あたしは協力したいから。」
何だか今まで張り詰めていた気持ちがふっと途切れてしまった。
絵梨沙は顔をゆがめたと思ったら、涙が出てきて止まらなくなってしまった。
「・・エリちゃん・・?」
絵梨沙は南の肩に手をかけるようにして泣いてしまった。
南は何も言わずにそっと彼女を抱きとめるように優しく背中を撫でた。
「・・・シェーンベルグ先生が・・・?」
南はようやく落ち着いた絵梨沙から全ての話を聞き、驚きを隠せなかった。
「・・真尋・・すっごい悩んで。 でも・・先生のために、今は必死に頑張ってるんです・・・。 それでもレッスンが進めば進むほど、悩みも大きくなっているみたいで。 家にもあんまり戻らなくなって、ほとんど先生のスタジオで過ごすようになって。 ・・あたしは・・何もできなくて・・」
絵梨沙はハンカチを握り締めて、鼻をすすった。
その話は南にとっても少なからずのショックを与えた。
「・・そうかあ・・・。 もう、何でもっと早く言うてくれへんかったの? そんなことなら、もっともっと早くエリちゃんたちを助けてあげられたのに、」
「・・あたしはどんなことがあっても真尋を支えたかったし・・・。 だけど、おなかも大きくなって身体の自由がきかなくなってきて・・・。 どうしていいかわかんなくなっちゃって・・」
とにかく
おとなしくて、儚げで
かわいくて、頼りなげなこの絵梨沙のことが
南はいつも心配だった。
「あたしが! エリちゃんのことを守ってあげるから。」
思わずそう言ってしまった。
「南さん、」
「エリちゃんはあたしの大事な大事な『妹』やもん。 ほんまにかわいくて。 ぎゅーって抱きしめたくなって。 真尋やエリちゃんが苦しんでる時はな。 あたしたち『家族』が助けてあげるのは当たり前。 もし、エリちゃんが嫌じゃなかったら、あたしほんまにいつまででも手伝うから、」
もう嬉しくて。
絵梨沙は胸がいっぱいになってしまった。
本当は心細くて。
帰らない真尋をこの部屋で一人で待つことがすごく寂しかった。
一人っ子だった自分にとって南は本当の姉のように頼りになり、その存在が心強かった。
頼りになる『姉さん』が来てくれて、絵梨沙は心からホッとします・・・
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