「・・ありがとう。 本当に助かったよ。」
レオには何とか連絡がついて、早めに帰宅してもらった。
「今夜は少し熱が上がるかもしれないそうです。 お薬をもらってきましたから、」
絵梨沙は袋を差し出した。
「ごめんね。 こんなに遅くなって。 送るから、」
「いえ。 マリーについていてあげてください。あたしは大丈夫ですから。」
「大丈夫じゃないよ。 普通の身体じゃないんだから。 マサが留守の間に何かあったら大変だ。 マリーは今よく寝ているから・・。 きみの家まで行って帰っても15分くらいだし、」
レオは時計を見て上着を手にした。
「明日、仕事は休めないのでしょう? あたしがここへ来てマリーの面倒をみます、」
「いや、しかし・・・」
「おばあちゃまの都合がつかないのなら。 あたしは真尋がいない間は用がないし。 マリーの看病くらいならできますから。 仕事ではなく、そうさせてもらえませんか。」
絵梨沙はマリーのことが心配でどうしようもなかった。
「・・・ありがとう。」
レオは笑顔で頷いた。
「マサはこれからどんどん大変になるね、」
絵梨沙を家まで送る途中、レオはそう語りかけた。
「ええ。 こんなに大きな仕事は初めてだから・・・。 オルフェスのときは急なことで。 準備もなしにやったことが逆に新鮮にうつったみたいでしたけど。 今度はそうはいきません。 アルデンベルグの創立記念公演でもあるし、」
絵梨沙は不安を口にした。
「でも。 きっとマサは今までのアルデンベルグの歴史にないような新しい演奏をしてくれると思うよ。 ぼくも今からワクワクしている。 シェーンベルグ先生にとっても久しぶりの弟子の大きな舞台になるだろうからね、」
先生・・・
絵梨沙は病院でのことを思い出した。
なんだか
よくないことがこれから待っているような気がしてどうしようもなかった。
翌日。
絵梨沙は再びマリーの看病に出かけた。
「エリサ、きてくれたの?」
真っ赤な顔でマリーは喉に氷嚢を充てながら苦しそうに言った。
「まだ熱がありそうね。 大丈夫よ。 今日もパパが帰るまでいるから、」
絵梨沙はニッコリ笑って彼女の頭を撫でた。
マリーは安心して眠りについた。
彼女が寝息をたてはじめたのを確認して掃除でもしようかと立ち上がると
「・・・ママ・・」
マリーが寝言のように言った。
彼女が2歳の時に亡くなった母のことは、全く覚えていないと言っていた。
たぶん写真の中の母しか知らないのだろう。
でも。
こういう時に恋しいのは母だということは彼女の本能が察している。
絵梨沙はマリーの手をぎゅっと握った。
「・・大丈夫よ・・そばにいるから、」
そう囁くように言うと、安心したのかまた静かな寝息を立て始めた。
子供ができて
まだ実感はないものの
その存在が愛しいとかそんな言葉で言い尽くせないものだということは
自分の母性が感じている。
幼い彼女を遺して逝かなければならなかった彼女の母親の気持ちになると
胸が押しつぶされそうだった。
絵梨沙はマリーの看病を献身的につとめます・・
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