Ein Traum~夢(12) | My sweet home ~恋のカタチ。

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せつなくてあったかい。
そんなラブストーリーがいっぱいの小説書いてます(^^)

やめるなんて、イヤだ



子供のようにわがままを言いたかった。


しかし


シェーンベルグの言うことも、悔しいけど理解できてしまい真尋は黙ってうな垂れた。






「そう。 まあ、しょうがないよね、」



フランツは苦笑いをしてテーブルを拭きながら言った。



「おれは。 続けたいんだけど。 でも・・・」


真尋は何だか申し訳ない気がしてうつむいた。


「いや。 先生の言うとおりだ。 もうマサはここを卒業しなくちゃ。」


「マスター・・・」


「マサがここでピアノを弾き始めてから今日まで。 本当にお客さんが増えて。 マサがピアノを弾くと楽しくて・・。おれも仕事を忘れてうっとりして聴いてしまうくらいだった。 でも・・・こんな小さなピアノバーで『タダ』で聴かせたりしちゃいけない。 『アルデンベルグ』と競演するほどのピアニストなんだから。 自分の株を下げたりしちゃダメだ、」



ここで弾くことが


自分の株を下げるだなんてこと思いたくなかった。



「おれは。 ここでピアノを弾くことが本当に一番楽しくて。 ここで弾くようになって、お客さんに喜んでもらうことが本当に楽しいって思えるようになったから。 マスターのおかげでミニライヴをやらせてもらったり・・・すごく、感謝して・・」


真尋はたくさん感謝の言葉をフランツに言いたかったが


悲しいかな語彙不足でうまく言えない。


そんな彼の気持ちが手に取るようにわかってしまい



「わかってる。 本当に長い間ありがとう。 マサに出会えてよかったよ、」


フランツは笑顔で握手を求めた。


真尋はうつむいてボーっと手だけを出した。





「え、最後?」


絵梨沙は戻ってきた真尋のジャケットをハンガーに掛けながら彼に振り返った。


「うん。 明日で『Ballade』の仕事は終わりにする。 マスターがまた貸切でミニライヴにしようって言ってくれて。」


背を向けていた真尋の寂しさが伝わってきた。



「・・そう、」



詳しいことは聞かなかったが、その意味を理解した絵梨沙は小さく頷いた。



あのピアノバーが今の真尋を創り上げた礎になっていることは間違いなく


彼がどんなにこの仕事を大事にしていたかわかっているだけに


その無念さが伝わってきた。



仕方がないことなのだ



そう思っても、やっぱり寂しい。




噂を聞いた常連客がたくさん押しかけた。


絵梨沙もいつもの場所に席を作ってもらって彼の『最後』の姿を見にやって来た。



もう客と演奏家の関係ではなく、自分たちの結婚式にもやって来てくれたり


あたたかい思いをこの人達からたくさんもらった。



「みなさん、今日はお集まりいただいて、ありがとうございます。 ・・残念ながら今日でここでのピアノは最後です。 ここでもらったたくさんの拍手は・・一生忘れません、」



真尋はそう言ってぺこんと頭を下げた。



「小さな小さな・・・日本という国からやってきて。 たくさんの人達の前でピアノを弾くことができるというだけで、本当に幸せでした。 」



たくさんの思い出が


次から次へと溢れてきた。


「ここは。ぼくの全てです・・・。Es ist alles von mir・・・・」



そう言った後、顔が歪んだと思ったら、ぽろっと涙が零れ落ちた。



真尋・・・



彼の泣く姿を初めて見た。



みんなの拍手に泣き笑いのような顔を見せて、真尋はピアノの前に座った。



ショパンのノクターン第2番。



それは


優しい優しい


調べだった。



真尋はこれからの自分の道の覚悟を決めました。『Ballade』の最後の仕事はやはり特別で・・・



 

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