「やりたきゃ、やりゃいい。 わしは関係ない、」
シェーンベルグはいつものように大好きなミルクたっぷりのコーヒーを飲みながら言った。
「な。 あんま関係ないだろ?」
真尋は絵梨沙に笑いかけた。
ほんと。
すっかりツーカーね。
絵梨沙は肩をすくめて笑った。
「さて。 何弾こうかな~~~。 子供だからあ・・難しいものより華やかで、明るいのがいいよな・・・」
真尋はすっかりやる気満々だった。
・・楽しそう・・・
絵梨沙はいつの間にかそんな真尋がすごくすごく羨ましく思えるようになった。
なんなんだろう。
この気持ち。
『音楽は楽しいし、』
彼は何のためにもピアノを弾いたりしない。
自分が楽しくなるために弾いている。
あれからしょっちゅうマリーは二人の家に遊びに来た。
いまや絵梨沙よりも真尋の方に彼女はすっかり慣れて、一緒にピアノを弾くのを楽しみにしていた。
「んじゃあ。 おれ左手の方やるから。 マリーは右手な。 ちゃんと合わせろよ、」
「え~~、むずかしいってば~~、」
そう言いながらマリーは嬉しそうだった。
二人は並んでピアノに座り、弾き始めたのは
『花のワルツ』のさわりだった。
ゆっくりとゆっくりと真尋が教えるように弾いて、マリーは必死についていく。
たくさん間違えたり、つっかえたりしても
二人は本当に楽しそうだった。
二人で
必死にこれを完成させようと必死だったころのことを思い出した・・・・
シェーンベルグのスタジオをいつものように掃除をしていた。
先生も古いピアノを大事に使っている。
でも手入れが行き届いていて、ピカピカで。
絵梨沙は何かに吸い込まれそうな気持ちになりながら、そっとピアノのフタを開けた。
少しアイボリーがかった鍵盤。
母のピアノの色に似ていた。
あたしはピアノが好きだったんだろうか
もう自分の肉体の一部のようになっていたのに
あんなにあっさりとピアノを捨て去ってしまうなんて。
自分のピアノを否定され
ピアノではなく自分を欲しがる男たち。
真尋とマリーが楽しそうにピアノを弾く姿を思い出した。
きっと
あたしだってああいうときはあったのに。
指が
自然にAを叩いた。
マリーが楽しそうにピアノを弾く姿を見て、絵梨沙の心は動き始めます・・・
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