子供の扱いをどうしたらいいのか悩んでいたが、お互い『同性』として対等につきあえばそれはそれで楽しいものだ、と絵梨沙は少しホッとした。
一緒に買い物に行って、食事のしたくも一緒にやってと
初日から楽しくやっていた。
「パパ、6時には帰るって言っていたのに、」
マリーは時計を見た。
「お仕事が忙しいのね。 パパが帰るまでいるから大丈夫よ、」
絵梨沙は食事の仕度を続けながら言った。
約束の時間を1時間ほど遅れて、マリーの父親が帰って来た。
「パパ!」
マリーが飛びついて迎える。
「ごめんごめん。 仕事の話が長引いて。」
マリーの父親は想像よりずっと若く、背が高いまさにジェントルマン風の男性だった。
「すみません、初日だというのに挨拶もしないで・・・」
彼が視線を絵梨沙に移して、驚いた。
「・・え・・・、あの・・・」
「あ、あの。 『Ballade』のフランツの紹介で・・・参りましたエリサ・サワフジです・・・」
絵梨沙はぺこんと頭を下げた。
「エリサ・・・・、サワフジ。」
マリーの父はさらに驚いた。
あまりに驚いているので
「・・あのう・・・?」
怪訝な顔をすると、
「まさか・・・・ピアニストの・・エリサ・サワフジですか。」
どきんとした。
自分がこんな普通の家庭の人にも知られていたことが。
「ご、ご存知でしたか、」
「いや~~~、新しいシッターの人を本当に慌てて探していたもので。 ぼくも2日も会社を休んでしまって、フランツにもいい人がいたらってお願いをしていたんだけど。 まさか・・・あなたが、」
「ちょっと・・事情がありまして・・・。 ピアノは、今は・・・」
非常に気まずい雰囲気になっていた。
「いやあ・・・。 もう、びっくりです。 ぼくはウイーンの音楽院を卒業しているので、」
「えっ・・・・」
その経歴に驚いた。
絵梨沙の作った食事を食べて、マリーも父親もすごく喜んでくれていた。
「いやー・・。 本当に美味しいです。 すみません、こんなことまで。」
「いえ。 食事の支度ならあたしが仕事時間内でさせていただきます。」
絵梨沙はニッコリ笑った。
「ぼくはね。 サックスをやっていたんです。 それで音楽院にいて。 まあ、才能もそうなかったので卒業後は銀行勤めに鞍替えしましたが。 趣味でサックスは続けていました。 市民音楽サークルにも入っていて、その時に音楽院の大先輩のフランツがオケの指揮をやってくれたので。 それで親しくさせてもらいました、」
「そうだったんですか・・・。」
「ですから。 今でも音楽は好きですよ。 あなたのこともよく知っています。 ウイーンの市内でも何度かコンサートをされていたでしょう? 見に行かせてもらったこともありますよ。 もう・・本当に天使のように美しい人だなって、」
「いえ・・そんな・・・。」
「そのコンサートでも思ったんですけど。 日本の女性ってお辞儀が美しいですね。 さっきもあなた、ぼくにペコリとお辞儀をしたでしょう? こっちの人は挨拶でお辞儀をするってことがあまりないから・・すごく新鮮で、」
欧米の人って見るところが違うわ・・・
絵梨沙はヘンな所に感心をした。
「ねえ、エリサ! いいもの見せてあげるよ!」
食事を終えたマリーが彼女の手を引っ張った。
思いがけずマリーの父親も音楽院の出身でした。そして彼は絵梨沙の正体を知り・・?
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