そのノクターンは
3人の知っている真尋のソレではなかった。
彼が弾き始めてすぐにその『異変』に気付いた。
本質は変わっていない。
うまく口に表せない。
だけど
志藤は鋭い目で彼がピアノを弾く後ろ姿を見た。
言葉に表すと
『ちゃんとしている』のだ。
もうそうとしか言えない。
今までの彼のピアノがちゃんとしていなかったわけではない。 しかし、彼独特の解釈と表現が満載だった。
自由に、それでいて曲の持つ本質を損なわないピアノ。
しかし
このピアノは『正確すぎる』ほどなのだ。
しかも
志藤は少し立ち上がって真尋の手元に注目した。
指の動きが前より速く、正確だ。
音がクリアで透き通ったガラスのようだった。
真尋は『凡人並み』だったそのテクニックでも、それを上回る表現力で多くの称賛を得てきた。
最初は難しいことをやらせようと思ったりしたが、それよりも真尋が真尋らしい音が出せる曲でいいんじゃないか、と思うようになった。
誰にも真似できないその表現力がある限り、彼はピアノで食べていけることができると思っていた。
志藤はシェーンベルグと目が合った。
そして巨匠はふっと笑った。
まるで志藤の驚きが手にとるようにわかっているかのように。
この人。
とんでもないことを真尋に施そうとしている?
ゾクっとした。
彼と同じことを絵梨沙も考えていた。
無条件に胸を揺さぶる彼のピアノではない。
彼のピアノが
変わっていた・・・・
つづいて。
ラヴェルの『水の戯れ』
絵梨沙は胸がどきどきしてきた。
思わず手を胸にやった。
志藤は思わず巨匠の表情を伺います・・・
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