「まだいたのか・・・。とっとと帰ればいいのに、」
目を覚ましたシェーンベルグはそんな憎まれ口を叩いた。
「お医者さんが。 こっちに身寄りがないってゆーからさ。 奥さんは?」
「もう10年も前にあっちの世界に行っちまったわい、」
おもしろくなさそうに言った。
「そうかあ・・・。 最近はレッスンとかしてないって言ってたけど・・・・。 あそこでなにしてたの?」
今までこの人のことに関しては何一つ知らなかったが、急に興味がわいてきた。
「そんなこと。 わしの勝手だろう、」
「先生も。 昔はピアニストだったんだろ?」
「20代半ばころ。 肋膜を患って。 ピアニストは諦めた。」
シェーンベルグはぽつりぽつりと話し始めた。
「それから音楽院の先生になったんだあ、」
「まあ。 星の数ほど生徒を持ったけど。 だいたい1度ピアノを聴けばどの程度なのかわかるな、」
真尋はニヤっと笑って
「んじゃあ。 おれはちょっとは見込みがあるってこと? 倒れるまで夢中になってやってくれたんだし、」
と言った。
すると眉間にしわを寄せて、
「本当におまえは図々しいな、」
と苦々しく言った。
真尋はクスっと笑って、さっき買って来た専門雑誌をぱらぱらとめくった。
すると。
「あ・・・・」
絵梨沙がNYの大きなホールで単独のコンサートを開いたという記事が載っている。
「絵梨沙だあ・・・」
思わず顔がほころぶ。
それを見てシェーンベルグがそれを覗き込んでその雑誌を奪い取った。
「・・・フェルナンドの・・娘か。」
「え、知ってるの?」
「いちおう話題の演奏家はチェックをしている。 」
「やっぱり話題なんだあ~~~。 そーだよなあ、ここにもその美貌がって書いてあるもんな~~~、」
ニヤついて言うと、
「容姿だけでなく。 派手なピアノが弾ける子だな。 文句なく、上手い。」
絵梨沙のことをほめたので
「・・・そーだよなあ。 絵梨沙は上手いんだよなあ・・・。」
今さらながら頷いた。
「以前よりも幅も出たし。 まあ、これからだな。」
真尋はムフフと笑って
「絵梨沙は。 おれの彼女なんだ~~。」
と言うと、シェーンベルグはぎょっとして
その写真の絵梨沙と真尋を何度も見比べた。
「・・・もっとマシなウソをついたらどうなんだ、ありえん!」
「え~~、ホントだって!」
「この世の終わりだな、全く!」
「何への怒りだよ、も~~~、」
少しだけ
巨匠に近づいた気がして。
少なくとも
仙人ではないな、と思ったりもした。
少しだけ巨匠に近づきました(-^□^-)
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