「なにって・・・」
真尋は戸惑った。
「なんのビジョンもなく。 わしの弟子になりたいなんて言ったんじゃないだろうなあ、」
老人はニヤリと笑った。
「び、ビジョンはあるけど! おれは。 金の取れるピアニストになりたいんだ! 世界中の人に・・おれのピアノを聴いてもらいたいんだ。 そのために・・おれは学校もまともに出られなかったし、もっともっとピアノをレッスンしてもらって、すげえピアニストになりたいんだ!!」
真尋は自分の正直な気持ちを叫んだ。
「ピアニスト? それは・・・ウイーンフィルなんかと競演のオファーが来たり、一流のホールでコンサートをやってくれとか、そういうピアニストのことかな?」
しわがれた声で彼は言った。
「・・・それは・・・。」
「おまえ。 どんなコンクールで賞を取ってきた?」
「おれは。 12歳の時に日本のコンクールに出て以来、コンクールは何も出ていない、」
それには少し驚き、
「何も?」
「おれのピアノを減点で評価されるのがイヤなんだ。 ピアノは誰かがおれのピアノを聴きたいって、言ってくれる人がいることが喜びなんだ、 だから・・・そういう売れっ子のピアニストになれなくても・・・、おれのピアノがわかってくれる人に聴いてもらえればいいんだ、」
真尋の言葉をシェーンベルグは笑みさえ浮かべながら聞いていたが、いきなり持っていた杖を彼の鎖骨辺りに突きつけた。
「なっ・・・・なんだよっ!!!!」
「そんな生半可な気持ちでわしに弟子にしてくれなんて言いにきたのか!!」
すごい迫力だった。
「え・・・」
「減点で評価されるのがイヤだ??? ふざけるな! 何様だ!! コンクールのひとつも潜り抜けられないヤツは何をやってもダメだっ!!!」
今まで
そんな風に叱られたことは一度もなかった。
自分は本当に頑固で、どんなに周囲にコンクールを勧められても決して納得できなかった。
「コンクールは。 確かに単なる審査員たちの評価に過ぎない。 しかし、その理不尽な採点にも勝ち残っていくくらいの強さがなかったら! この厳しい世界は生き残っていけない!!」
もう
今までの考えが根底から覆されるような気持ちだった。
「年末にウイーンで『ファンベルグ国際コンクール』がある。 そこで優勝しろ。 そしたら弟子にしてやる、」
シェーンベルグは不敵に笑った。
「って! さっきのあのコンクールで優勝したらって・・・」
「弟子にするとは言っておらん! もう一度チャンスをやるだけだ、」
「なんだよ! それっ!!! いきなり優勝なんかムリに決まってんだろ!!」
逆ギレして言うと
「そんな根性なしは、わしはいらない。」
全く聞く耳を持たなかった。
「なんなんだよ・・も~~~~~、」
シェーンベルグは
「いつも。 あのレッスンスタジオに昼過ぎから来ている。」
そう言って、何かを手帳に書いてそれをサッと真尋に手渡し、去って行った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「真尋が・・コンクールに出るの?? しかも、『ファンベルグ』に?」
私はもう驚くばかりだった。
「なんかそういうことになっちゃってさあ・・・・。」
「でも・・・それはそのためのレッスンをその巨匠がつけてくれるってことでしょう? それはそれでスゴイんじゃないかしら、」
「まー、そうなんだけどさあ・・・・。 んで、その渡された紙に何書いてあるのかと思えば。 月謝の金額が書いてあってさあ・・・。 まったくちゃっかりしてるっつーか、」
「それは立派なレッスンよ、」
私はおかしくなって笑ってしまった。
またも難題をつきつけてくる巨匠。真尋はどうなる??
↑↑↑↑↑↑
読んで頂いてありがとうございました。
ポチっ! お願いします!
人気ブログランキングへ
携帯の方はコチラからお願いします