「なあ・・絵梨沙ァ・・・」
彼はゆっくりと話し始めた。
「おれ。 学校やめるわ、」
そしてあっさりとその言葉を発した。
「真尋・・・」
私はどこかでその言葉を予測していて、とうとう彼の口からその言葉を聞いてしまったショックに包まれていた。
「やめて、どーするって言われたら・・まだ答えられないけど。 どのみちおれピアノでしか食っていけねーし。 少しだけ早く・・その道に行くだけだ。」
「どこで・・仕事を?」
私は震える声で言った。
「志藤さんや先生にも相談したいけど。 できれば・・おれ、ウイーンでやってみたいんだ。」
私の『中枢』がぐっとつかまれた。
「ウイーンで仕事見つけて・・頑張りたい。 いや・・もちょっとピアノの腕も磨きたいかな。 まだまだかなって思うこともあるし。」
はらはらと涙が止まらなかった。
私が何も言わなかったので、彼は振り返った。
「絵梨沙・・・・」
泣いている私に彼は申し訳なさそうに私の手を握った。
「・・・もう。 一緒にいられないのね・・・」
私は5月一杯で学校を卒業したあと、すぐにNYに行くことになっていた。
もうその日まで1ヶ月しかない。
「・・それを言うなよ・・・。 すんげえつらい・・・」
否定をしなかった彼の言葉にまた涙が出てしまった。
私のわがままだと思っていた。
でも
ずっとずっと
一緒にいたかったのに。
「絵梨沙は。 先生と一緒にNYで頑張って・・・すげえピアニストになってくれ。 絵梨沙にならそれができるから、」
そんな励ましもされたくない。
「絵梨沙と別れるつもりなんか・・ないから、おれ! ちょっとだけ・・・遠くに離れるだけだから・・・」
距離ができてしまったら
私はもうどうしていいかわからなかった。
恋愛経験に乏しかった私にとって
そばにいることだけが愛の証だと思っていたから。
私は彼の背中に抱きついて、ずっと泣いてしまった。
どうにもなるわけでもないのに。
お互いの夢を叶えるためには
どうしようもないことなのに。
私は彼のそばにいることを諦めることができなかった・・・・。
絵梨沙はただただ真尋の側にいたい、それだけで・・・
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