「・・・なんで、謝るの?」
夏希はそんな彼に言った。
「・・・ほんっと。 あのドレス。 すんごい似合ってた。 キレイだった。 あれを着た夏希と一緒にバージンロードを歩きたかった、」
夏希は胸の前で拳を握り締めた。
「ちゃんと式を挙げて、披露宴もして。 誰にも恥ずかしくないようにして・・・夫婦になりたかった。 仕事は忙しかったけど、もっと自分の身体も気をつけなくちゃいけなかったのに。 ・・情けない、」
うつむく彼に
「・・もー・・・だから、いいのに・・」
何だか泣けてきそうだった。
高宮は同じ引き出しから1枚の紙切れを取り出した。
それを夏希に手渡す。
「・・・・」
それは
婚姻届だった。
もう高宮の名前が書いてあり、捺印もしてあった。
「・・これ・・」
夏希は高宮を見た。
「籍を・・入れよう。 式は正直言っていつになるかわからないから。 もう・・夏希と夫婦になりたい、」
高宮は小さな声で少し恥ずかしそうに言った。
「・・隆ちゃん・・・」
夏希はもう胸がいっぱいになって、どうしようもなくなって。
思わずその婚姻届を顔に当てるようにして泣いてしまった。
「夏希・・・」
「も~~~、何だかわかんないけど・・・。 なっ・・・涙が・・・!」
もう、箍が外れたようにわんわんと泣き出した。
「・・それは・・・OKってことなの?」
いまだに彼女の心が読みきれない高宮はいちおう聞いた。
夏希は婚姻届を顔に押し当てたまま、黙って大きくウンウンと頷いた。
高宮はそんな彼女の『答え』に、ふっと微笑んだ。
「あ~~、もう。 こんなの驚かさなくっていいから・・・。」
夏希はようやく届けを顔から離した。
「・・え?」
高宮は彼女の顔を凝視した。
「なに??」
鼻をすすりながら言う。
「鼻のアタマが黒くなってる・・」
「え??」
高宮はハッとしてその婚姻届を彼女から奪い取った。
見事に彼の記したサインが涙で滲んで、ぐちゃぐちゃになっていた。
「あっ!!! 消えてるっ!」
「は??」
夏希は慌ててそれを覗き込んだ。
よく見ると彼女のほっぺたも黒くなっていた。
「これさあ・・万年筆だったから! あ~~~、ダメだ、コレ。」
高宮は脱力してしまった。
結婚式は挙げられませんでしたが、高宮は夏希にきちんとケジメをつけようと思います。
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