「・・・なんで・・・」
南は涙を手でぬぐいながらも、子供のように顔をくしゃくしゃにさせた。
「・・あ、あたし・・・。 南です。 ・・真太郎の・・妻の、南です、」
まだ点滴のつながったままの北都の手をぎゅっと握った。
北都はぼんやりと少し驚きの表情で彼女を見た。
「・・・しゃ、社長が・・・・あたしと真太郎の結婚を・・・。 後押ししてくださったんやないですか。 大阪の小さな食堂の娘の・・あたしを・・・北都の嫁に・・真太郎の嫁にしてくださったんやないですか、」
真太郎の名前を出されて
北都はまた困惑の表情になってしまった。
「あたしたち・・・もう結婚して・・13年になるんです・・。 あたしも・・微力ながら真太郎の妻として・・・ずっと・・・彼といっしょに・・・」
たぶん
自分がなぜこんなに泣いているのかさえ
今の義父にはわからないのかもしれないと
南は覚悟をしながらも、言わずにはいられなかった。
「・・・おそらく。 記憶障害を起こしているのでしょう、」
心配したゆかりと真緒は主治医のもとを訪ねた。
「どの程度まで脳内の記憶や判断力が回復しているのか。 こればかりは我々も調べることはできませんが。 そして、なぜご長男のことだけが思い出せないのか。 その理由も今はわかりません。」
「・・そんな、」
ゆかりは膝の上でハンカチを握りしめた。
「じゃ・・じゃあ。 父の記憶から・・真太郎の、兄の記憶だけが消えてしまった可能性もあるってことですか??」
真緒は必死だった。
「まだそうとも言えません。 なぜそのようなことになったのか、精神的なこともあるかもしれませんが・・・。 とにかく今はまだ食事も採れずに点滴だけで栄養を入れている状態です。 これから回復して食事を採れるようになったり、リハビリで身体を動かしたりするうちに、記憶はよみがえる可能性はありますから。」
医師の精いっぱいの言葉にも二人はショックを隠しきれなかった。
「も・・・なんで?なんで・・・あたしのことなんか覚えてはるのに! 真太郎のことを忘れてしまったんですか・・?」
南は気持ちを激しく揺さぶられ、まだ寝たきりの義父に思わず言ってしまった。
「真太郎・・・ほんまに・・社長が倒れてからめっちゃ頑張って・・・。 ほんまに、頑張ってたのに!!」
その時
「・・・南、もう・・いいよ。」
後ろから声がして振り向いた。
真太郎が茫然とそこに立ち尽くしていた。
「・・真太郎・・・」
北都も視線を彼にやった。
「親父を責めても・・しょうがない。」
ポツリと言う彼の目が
もう
本当に寂しそうで、悲しげで
見ていられないほどだった。
真太郎のショックは、計り知れないものでした。 南は必死になりますが・・・
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