「専務さんも。 どーぞ、」
あゆみが水割りを作って差し出してくれた。
「・・ありがとう、」
少し微笑んでそれを受け取る。
そこに
「あ、いらっしゃいませ~~、」
リエがやって来た。
「ああ、そうそう。 このコが『ミス東大』や!」
志藤は思い出して言った。
「え、」
真太郎は彼女を見る。
「別に『ミス東大』じゃあありませんから。 まあ、いちおう卒業はしましたけど、」
リエは志藤の肩を叩く。
「・・東大、」
真太郎はつぶやいた。
「このジュニアも東大の理工を卒業してんねんで。」
「理工? じゃあ、あたしと同じです。」
「リエちゃん、理系なの?」
「ええ。 建築を勉強してました。」
彼女はニッコリ笑う。
「・・でも・・どうして、この仕事を?」
真太郎は不思議に思って聞いてしまった。
「卒業して・・大手の建築関係の会社に勤めたんです。 あたし高層ビルとかの建築の研究してたので、そういう部署に。 でも・・・急に鉄骨を相手にするのがつまらなくなっちゃって、」
「え、」
「やっぱり人間を相手にしたほうが、自分を成長させてくれるんじゃないかって。 ・・・お得意さまとの接待でこのお店に連れてきていただいたことがあって。 本当に水商売って言っても、ママもみなさんも接客のプロで。 ああ、こういうのっていいなって。 そしたらもう・・・次の日には退職願を出してました、」
あっけらかんと笑った。
彼女の話は
真太郎の胸の中にスッと入ってきた。
「どんな仕事をしていても。 いきつくところは『人』じゃないですか。 そうですね、ここで人と関わることを学んだら・・将来は『現場監督』とか、やりたいかなって。」
「現場監督~?」
志藤は驚いた。
「建物を作るのを指揮する人。 みんなで一緒に力を合わせて、大きいもん建ててって。 楽しいじゃないですか。」
「・・すごいな、」
真太郎はつぶやいた。
「すごくなんかないです。 あたしは子供のころから自分のしたいことだけしかやってきませんでしたから。 親から指図されるのもイヤでしたし。 もう悔いなく人生送りたいし。」
何のこだわりもなく、
自由に生きる彼女がうらやましかった。
そして
眩しく見えた。
志藤さんが
酒の効用(?)について、さっき説いてくれたけど
確かに
酒を飲んで、楽しくおしゃべりをしていると
イヤだったことは忘れられる。
そして、ドツボにはまりそうになった気持ちを留めてくれる。
「じゃあ。 またおいでください、」
リエは帰り際に美しく会釈をした。
「ええなあ。 おいでくださいって。 キャバクラだと『また来てね~~~!』やしな、」
志藤は笑う。
リエは真太郎に笑いかけ
「専務さんも。 何かつらいことがあったときは、こうして誰かと楽しくお話するのが一番ですから。 こうして一緒にお酒を飲んでくださる先輩もいらっしゃるんですから。」
まるで
彼の心の重圧もわかっていたかのように言われた。
「・・・あ・・えっと、」
と、戸惑っていると、
「人間、一文無しになっても。 最後に『人』が残ってくれたら・・・生きていけますから。」
人・・・
自分がこれまでどれだけの人たちに支えられてきたのかを
一瞬にして思い起こした。
「・・ありがとう。 また・・寄らせてください、」
最後は笑顔でそういうことができた。
理知的で自分の意見をはっきり持つリエに真太郎は少しだけ気になるものを感じますが・・
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