「ねえねえ。 秘書課に大阪から来た志藤さんっているでしょう?」
ゆうこは一緒にランチに行った同期入社で総務部の金井美奈に言われた。
「え・・ウン・・」
「すっごいカッコイイよね。 もう女子社員の間でも噂だし。」
「そうかなあ、」
ゆうこはどうにもあの偉そうな態度が許せなかった。
「でも。 大阪の総務の子に訊いたんだけど。 志藤さんってすっごい女たらしなんだって~~。」
美奈は笑った。
「はあ??」
「社内でも片っ端から手えつけてるとか。 キャバクラのお姉ちゃんが会社にまで来て同伴をせがんだとか。 大阪に行くときもね、突然だったから女の子たちに衝撃が走ったって、」
彼女はおかしそうに言った。
「はあ???」
真面目なゆうこにとって
今まで生きてきて恐らく出会ったことがない男であることには間違いなさそうだった。
「仕事はね。 すっごくできるんだって。 最初は企画部にいたんだけど、それから秘書課に移って支社長の希望で秘書してたって。」
いくら
仕事ができてって。
こういうのってチームワークだし。
あの人は一人で突っ走ってるし。
ゆうこはデザートのプリンを食べながら思った。
ランチから戻ると志藤がひとりデスクでタバコを吸いながら新聞を読んでいた。
何となく気まずいのでそおっと席に着くと、いきなり
「ねえ。 コーヒー、淹れてくれる?」
顔も見ないで言われた。
「はあ??」
驚いて声を上げると、彼はゆうこの方を見やって、
「コーヒー。」
と、また『あの』笑顔で言われた。
「自分のは自分でどうぞ、」
ゆうこはイジワルを言ってしまった。
「え? 白川さんて~。 そういう人じゃなかったの?」
「は?」
「お茶やコーヒーを淹れるのがすっごく上手くて、社長室に花を飾ったり、ものすごくキレイに掃除をしたり。 家政婦さんみたいだーって、」
ゆうこは腹の中が煮えくり返りそうな思いだった。
「社長のお気に入りで、ご指名で秘書やってるけど、仕事はあんまりできないとか、」
なっ・・
なに、この人!!
もう怒りでふるふると震えてきた。
「でも、身の回りの世話をさせたらすっごい才能発揮するって。」
と、またニコーっと笑われた。
「だっ・・・だれがそんなことを・・」
怒りを押し殺して言った。
「え? 噂。 女の子たちって噂好きだし、」
頬杖をついてにんまり笑う。
確かに
入社1年目で何のとりえもない自分が社長秘書に抜擢されて、
女子社員からは、社長に取り入ったとか
いろんな噂が流れて。
最初は嫌な思いもしたけど・・・。
だけど
自分なりに一生懸命やってきて
仕事だって・・・
そしてとどめのように
「クラシック事業の会議もさあ。 きみは別に参加しなくてもいいんじゃない?」
と言われて。
ゆうこはもう
泣きそうになってしまい
言葉が出てこない。
こんなヤツの前で
泣くもんか!!
そう思い、クルっと背を向け
「・・・セルフでお願いします。」
とだけ言って部屋を出て行った。
も~~~!
ひどいっ!!
あんなこと言うなんて!
まだ来て3日目の人にっ!!
ゆうこは部屋を出たとたん、大粒の涙がボロボロとこぼれてきてしまった。
あんまりにもシツレイすぎる志藤の言葉にゆうこはもうズタボロです・・・
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