「11月、ですか。」
ゆうこは北都から何気なく話をされた。
「ああ。 色々準備もあるし・・。 彼女の身体の具合も考えて。 その頃に合わせて発表もする、」
真太郎と南の披露宴の日にちが決まった。
ゆうこにこの話をするのも気がひけたが
言わないわけにもいかず。
会話の端に添えるように
そう言った。
「わかりました。 準備で何かありましたらお手伝いさせていただきます。」
ゆうこは静かに頭を下げた。
「いや、準備は・・ウチの家内もいるし。 きみに迷惑を掛けることはない。」
北都は遠慮をするように彼女に言った。
「いいえ。 大事な北都グループのご長男の披露宴ですから。 会社関係のご招待客もいらっしゃるでしょう。 それは奥様にはおわかりにならないこともありますし。 あたしがご協力させていただきます。」
ゆうこはふと微笑んだ。
無理をしているんじゃないか、と
ゆうこを気遣う北都だが
彼女の明るい顔を見て
少しホッとしてしまった。
「え~? なに?」
真尋の暢気な声が電話越しに聞こえてくる。
「だから。 おれたちの披露宴、11月23日に決まったから、」
真太郎は話を聞いていない彼にため息混じりに言った。
「あ、そー。 決まったんだ。」
「それで。 まあ・・・大々的にやらないとなんないし。 招待客もハンパないことになりそーなんで。」
「そりゃそーだろ。 北都の跡取りの結婚式なんだから。」
「それで。 ピアノをおまえに頼みたいんだ。」
「・・ハア?? おれ?」
ちょっと声が大きくなった。
「いろんな人がたくさん来るから。 おまえのことも紹介したいし。 今後のことも考えて。」
「別に紹介しなくってもいいってば。」
面倒臭そうに言った。
「そうじゃなくて! おまえだってもうウチと契約したプロなんだからな。 これから日本でもどんどん売り出して・・」
「別にいいのに。」
あくまで暢気な真尋だったが
「ま。 それをおいといても。 真太郎と南ちゃんの結婚式ならしょーがないかな。 いいよ。 やるよ。」
と快諾してくれた。
「ありがとう。 よかった。」
ホッとした。
しかし彼は続けた。
「タダじゃないよね?」
「はあ?」
「だって。『プロ』だし。」
「報酬はちゃんと考えるよ・・」
アホなくせに
そーゆーことは
頭が回るし。
「そっちはいいけどさあ。 こっち今、夜中だよ? ちょっとは考えて電話しろよ~。」
とボヤかれた。
「ごめん・・。 寝てた?」
「ううん。 セックスしてたとこ。」
あっさり言われて。
「はあ???」
真太郎は会社のデスクの電話で思わず大声を出し、みんなが一瞬振り向いた。
慌てて小声で、
「バカっ!! 何言ってんだっ! 昼間っから!」
赤面してきた。
「だからァ・・・。こっちは夜中なの! いいとこ邪魔すんなよ!」
一方的に電話を切られた。
そっ・・・
想像するじゃんかっ!!
あの
死ぬほど美しい絵梨沙のことを思い出してしまった。
「アハハッ! ほんまに~~? 真尋らしいってゆーか、」
家に帰ってその話を南にしたら大笑いした。
「全く。 よくもまあ恥ずかしげもなく・・」
真太郎はボヤいた。
「でも。 うれしーな。 真尋のピアノで披露宴ができるなんて。」
南はしみじみ言った。
「準備も大変だろうけど。 南は身体に障らないようにやって、」
真太郎は優しく笑った。
「ウン。 自分の結婚式やもん。 大変でも楽しみ。 うれしーなあ、」
子供のような笑顔を見せた。
真尋のいつものペースに巻き込まれていますが、真太郎と南の結婚式の具体的なプランがまとまりはじめてます。しかし、この披露宴によって運命が動き出したのはこの二人ではありませんでした・・。