現在の志藤家ではゴタゴタがまだおさまっておりません・・
「あなたはいっつも。 仕事のことは何も言ってくれないし・・・。 悩んでいる時も、本当に追いつめられているときも、」
やっぱり
ゆうこは志藤を前にして泣いてしまった。
「だ、だから。 別に内緒にしてたわけやないって。 ちゃんと決まったら言おうと思って、」
彼女の涙には
本当に弱い。
「決まったらって。 どうしようかって悩んでいる時も。 あたしに相談しようかとか、そんなのもないんですか?」
ハンカチを握り締めながら言われても・・。
「ゆうこには心配かけたないねん。 ほんまに毎日子供たちのことで大変なのに、」
優しくそう言うと、
「南さんには心配をかけてもいいんですか!」
いきなり今度は怒り出す。
「南は仕事上の相方みたいなもんやん。 とりあえず言っておかないと、」
困ったように頭を掻いた。
「だから! その前にあたしにひとこと言って欲しいのに!!」
この
彼女の
『泣き怒り』
にも
本当に弱くて。
「も~~、だからさあ。 ゆうこが一番大事やから・・心配かけたくなかったんやんかあ、」
彼女の背中に手をやった。
そして
優しく抱きしめた。
「そうやって! いっつもごまかして、」
ゆうこは彼から離れようとしたが
「・・ごまかされて、」
志藤はニッコリ笑って、強引にゆうこを強く抱きしめた。
もう
悔しいけど
何度も
何度も
彼にこうやってごまかされて。
強引なキスも
今でも
とろけそうなほど
不思議に気持ちが
萎えてしまって。
ウソつきで。
本気がどこにあるかわからない。
出会った頃は
腹立たしいことばっかりだった。
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「へえ、そんな人が?」
ゆうこは真太郎に言った。
「ええ。 ぼくもね、面識はないんですが。 社長が直々に連れてくるくらいだから。 そうとうな人なんでしょう。」
真太郎は書類を整理しながら言った。
「ああ、南がこの前行ったフレンチのお店が美味しかったら、また一緒に行こうって・・言ってましたよ。」
そして話題を変えるように言った。
「ああ、代官山のですね。 ほんとワインもいいものを揃えてて。 あんまり高くなくて雰囲気のいいところでしたね、」
ゆうこはにこやかに言った。
彼らが結婚してからも
ゆうこは一緒に食事に行ったり、南とは休みの日にショッピングをしたりと
普通につきあっていた。
どこかで
自分の思いが遂げられなかった虚しさから目を逸らして
現実を見ようとしていないと
ゆうこは自分でも思っていた。
それでも
これで自分が引いてしまったら
きっと二人は
自分に気を遣い
ぎくしゃくした関係になることがわかっていて
今の居心地のいい空間を知らず知らずに
作っていたのかもしれなかった。
現在のゆうこは相変わらずつかみどころのない志藤に怒り、過去のゆうこは真太郎と南たちとの距離感に悩みます・・・
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