「いつまでですか?」
志藤はさらにその女性に質問をした。
「それはこちらでも聞いておりませんので、」
「連絡を取りたいのですが。」
「それはお教えすることはできません、」
とキッパリと断られた。
ここまで来て
八方塞になりそうだったが、志藤はあることをふっと思い出す。
「うん・・悪いけど。 調べてくれる? ちょっと・・どうしても連絡をとりたくて。」
志藤は十和田の妻が料理研究家の十和田敦子だということを思い出した。
彼女はMTBテレビでレギュラーの料理番組を持っている。
同じ局で以前、クラシック番組を定期的に放送していて、その企画に携わっていた志藤は番組関係者に十和田の自宅の連絡先を聞こうと思った。
30分ほどしてMTBのディレクターから折り返しの電話を貰った。
「あ、志藤さん? 連絡先わかったんだけどさあ、」
「ああ、ありがと。」
「なんか噂なんだけど、」
「え?」
「十和田先生の旦那さん、麗明会の十和田会長・・病気で入院してるらしいよ。」
「え・・・」
言葉を失った。
「この前、敦子先生が出るはずだった番組、出演キャンセルになったって。 なんか今年4月くらいから自分とこの病院に入退院を繰り返してるって。」
「病気?」
スポンサーに名乗りを上げて、自分たちと会ったころは
すでに闘病中だった?
よくわからなかったが、とりあえず自宅の電話番号と住所を手に入れた。
自宅に電話をしてみると、お手伝いだという人間が出た。
「会長はご在宅でしょうか?」
「会長はこちらにいらっしゃいません、」
「ご病気だとお伺いしたんですが、麗明会病院に入院されているんでしょうか?」
すると一瞬の間があって、
「いえ、入院はしておりません。」
と否定された。
「どうしても会ってお話ししたいことがあるのですが。」
「私は留守番の者ですので、ちょっとわかりかねます。」
やんわりと断られた。
電話ではどうしようもないことがわかり、志藤は住所を頼りに彼の自宅を探した。
市内の閑静な住宅街だった。
すっごい家・・
立派な門構えで家の中が見えないほどだった。
いきなりインターホンを押してみようか、と思ったとき、その脇にある通用口からクリーニングの袋を抱えたおばちゃんらしき人間が出てきた。
「あ、すみません、」
志藤は思わず声をかけた。
「はい?」
「あのう・・十和田会長入院されてるって聞いたんですけど、」
唐突な質問をぶつけてみた。
「あんた、だれ?」
当然、思いっきり怪しまれた。
「あ、すみません。 仕事関係のものなんですが。 会長に連絡が取れなくて困っているんです、」
と、ごまかしながらニッコリと笑う。
その笑顔攻撃が通じたのか、おばちゃんは思わず
「ああ、もう・・出たり入ったりみたいやで。 ていうか会長はほとんどこの家にはおらへんみたいやけども、」
と暴露してくれた。
志藤は身を乗り出し、逸る気持ちを抑えて
「・・クリーニング屋の方ですか?」
「そうだけど、」
「女性で大変ですねえ・・。 重労働でしょう。」
女性キラーのオーラを出しまくる。
「いや・・それほどでもないけど~・・。 あんた東京の人? ええ男やなあ、」
急におばちゃんの態度が変わり始めた。
「いいえ、関西出身なんですが。 今は東京の会社に、」
「じゃあ、わざわざ?」
「ちょっと大事な話があったのに、病院のほうに聞いてもまったく連絡先を教えてもらえなくて。 困っていたんです。」
同情を買うように言うと、おばちゃんは手招きをして志藤を自分の車の陰につれてきた。
「なんですか?」
「・・ここだけの話やけど。 もう・・アカンみたいよ。」
彼女はボソっと言った。
「は?」
「ガンらしいって。 この前お手伝いさんがポロっと漏らしてたから、」
「ガン・・?」
驚いた。
「元々・・会長は別にマンションを持ってて、そっちに愛人と入り浸っててこっちにはほとんどもどらないみたいで。あたしも会ったことないし。 奥さんはさあ、あの料理研究家の十和田敦子やろ? もう、籍入ってるだけの夫婦みたい。 だけど、もし万が一のことがあったら相続のこともあるし、離婚はでけへんやろけど、」
噂好きのおばちゃんで助かった・・
しかし
十和田がガンで
そして、かなり悪いらしい?
それは驚きの事実であった。
大阪では驚きの展開が待っていました。