To meet you(9) | My sweet home ~恋のカタチ。

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せつなくてあったかい。
そんなラブストーリーがいっぱいの小説書いてます(^^)

夜の11時半を回った頃だった。


高宮はシャワーを浴びて、ペットボトルの水を飲みながら明日の会議の資料に目を通していた。


そこに

携帯が鳴る。




「あ、加瀬ですけど、」

声の調子がいつもと違う。


「ああ。 今日は遅かったの?」

時計を見る。


「今日、渋谷で北都マサヒロさんのピアノミニライブがあって。 それが11時前まであったんで・・・」


「え? そんなに遅くまでやってるの? ピアノのコンサートって。」



「・・なんか、すごいんです。 も~」

と言った後に、



真尋のライブがこれまでのクラシックコンサートの常識を打ち破るようなもので、もう言いようのない興奮に包まれて、自分的テンションがかなり上がってしまったことなどを、機関銃のようにしゃべり始めた。



「あたしクラシックのコンサートってくしゃみもできないんじゃないかって思っちゃったんですよぉ。 でも! 真尋さんの格好もジーンズにTシャツで。 しかも! 途中から靴も脱いじゃって裸足なんですよ? んで、盛り上がってくるとみんな立ち上がっちゃって。 手拍子とかもしてるんですから! コレ、なんか武道館かなんかのコンサート? みたいな!」


「へえ・・・」

高宮は彼女が興奮して喋りまくるのを、にこやかに聴いていた。



「まあ・・・曲目はほとんどわかんなかったんですけど! でも、あ~、クラシックってすごいんだあって。ここまで盛り上がれるとは思いませんでした。」




絵梨沙が

彼のピアノから離れられないって言ったことが

ほんの少しだけわかるようで。


隣の席にいた彼女の横顔は

大事な大事な

宝物を眺めるような視線で。



彼女の気持ちを思った瞬間、夏希はハッとして、

「す、すみません。 一方的に話をしてしまいました・・・」

高宮の存在を思い出す。


「いや。 すっごい楽しかったって気持ちが伝わってきたよ、」



彼は

優しくそう言ってくれた。


「忙しいですか? お休みとか、あるんですか?」


「休みはね・・。 1日休んだことは・・なかったかな。 これから年末に向けてまた忙しくなるし。」


「ほんと、体大事にして下さい。」


「・・ありがと、」




こうしてきみと話をしていることが

自分のオアシスなんだよって。

すっごいクサいセリフは言えなかったけど。



「お正月休みとかは戻れないんですか?」


「どうかな。 仕事もわからないし。 実は正月の2日に妹が結納をすることになって。」


「結納、」


「例のオヤジの第一秘書と。 ウチ、地元長野だから。 そこですることになるらしい。 一応、おれも行くことになるし。」


「そう・・・ですか。」




それが

彼にとってどういう意味を持つことなのか。

夏希にはわからなかった。


それでも

そのことが彼の運命を少しずつ変えていくのではないか、と心配になる。




実際に

大阪に来て1ヶ月。

夢中で仕事をこなしてきたけれど。



ふと周囲のことが気になり始めると、

いろんなことが東京とは違っていて、その空気の中にいるだけで疲れてしまうこともある。

何が、

ということはないのだが。



父親の地盤は長野だけど

生まれてから東京とNYしか知らなくて。



大阪は

今まで生きてきて初めて暮らすタイプの場所だった。


正直

NYに行ったときのほうが違和感がなかった、というくらい。



それに気づきたくなくて、仕事で頭をいっぱいにしたかった。




東京へ帰りたいんじゃなくて

彼女と離れていることが

だんだんと寂しくなっているのだった。



時間が過ぎていくのを感じないように

毎日を黙々と過ごして行った。





「水谷さん、こっちが先だよ。 仕事の優先順位を考えて。」


「あ、はい、すみません。」



理沙は少し落ち着きを取り戻したが、まだまだ秘書としては半人前でつい心配になってつきっきりになってしまう。

この日も休みだったが二人で出勤していた。



「あの、これ・・・」

昼に近づき、彼女が遠慮がちにランチボックスを差し出した。


「え?」


「お弁当を、作ってきました。よかったら、」


「・・ありがとう、」

と受け取ってもらえると彼女は嬉しそうに笑った。




そのお弁当はまるで春のように華やかでキレイに詰め込まれていて。


「これ、水谷さんが作ったの?」


「え、そうですけど・・・」


「すごいね。 なんか買ってきたお弁当みたい、」


「そんなこと。 私一人暮らしなので、ちょっとお給料前とか苦しくなるとお昼はお弁当を作ってもってきたりします。」

恥ずかしそうに笑う。



そしてそれを一口食べてみる。


「どう、ですか?」



心配そうに高宮の顔を覗き込む理沙に、

「うん、うまい。 すっごいうまいよ。」

笑いかけた。


「よかったあ・・・」

理沙は安心したように自分用に作ってきた同じお弁当を口にした。



そのキレイでおいしいお弁当を食べていたら

なぜだか



あの

『バナナがゆ』を思い出してしまった。








まるで正反対の夏希と理沙。 高宮はそれでもいつもいつも夏希のことを想います・・


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