「ひよっこ」 第49回
第９週 「小さな星の、小さな光」
向島電機倒産・・・
頭の中が真っ白になるみね子
1965（昭和40）年11月28日
愛子） （鼻歌）
和夫） どうした？ 愛子ちゃん。
愛子） えっ？
和夫） 何か、あったのか？
愛子） ううん…。
あぁ、忙しいね、寮の仕事はね～。
和夫） まぁな。もう慣れっこだけどな。
愛子） そうだね。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（２日前）
松下） ちょっとすいません。皆さん、注目。
え～今月から、皆さんのお給料が、
１割程度、減額となりました。
（どよめき）
松下） 申し訳ありません！
原因は、アポロン社が、生産台数の
調整に出たことにあります。
オリンピック景気の反動で、
需要が落ち込み、企業は過剰な
在庫を抱えることになりました。
昭和40年は、高度成長期で唯一の
不況の年だったのです。
それにしても、
つらくて不安な年末ですね。
みね子たちにとって。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
お父さん…。
私は、この時間が一番好きです。
みんな思い思いに自分のことを
やっていて、穏やかな時間です。
みんな、おんなじ時間を、一緒に
生きてんだなぁという気持ちにな
ります。みね子は、お母ちゃんに
手紙を書いています。「お盆には
帰れなかったけど、お正月には、
帰ります」と。
幸子） ねえ、すてぎだどど思わない？
優子） どれ？
幸子） ほら。
優子） あんれ、ほんとだ。
みね子） 何です？
（雑誌に団地のモデルルームの写真）
みね子） わっ、すてきだなぁ…。
澄子） 何だよ、これ。外国みでぇ。
みね子） ね～！
豊子） 部屋さこの家具はついてねですよ。
自分で買えということです。
みね子） わがってるよ、そんなことは。
でもほら、頑張れば、こんなふうに
いつか、なれるっていうことでしょ。
豊子） はい、そんですね。
みね子） うん！
澄子） 何だ、くっついでるんでねえのか。
幸子） もう…。
優子） でも抽選なんでしょ？ すごい倍率
だってテレビで言ってあったよね。
幸子） うん。100倍だって。
澄子） え～！
時子） もしかして幸子さん…。
結婚して、こごに住もうとか？
一同） え～！
みね子） すごすぎる…。
澄子） 遊びに行きます。
豊子） 私も。
幸子） いや、そうなったらすてぎだなど
思っただげだよ。だって家賃7500
円だよぉ。
時子） え～！
幸子） でしょ？
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
愛子） はい、急いでね。
朝ごはんの時間なくなるよ。
一同） は～い。
みね子） 澄子、ほら早ぐ！
澄子） すいませ～ん。
（洗面所の順番を待つみね子）
時子） 顔、せっけんついてるよ。
澄子） えっ？
時子） はい。
（拭いてやる時子）
澄子） どうも。
優子） 誰か私の手拭い知らない？
幸子） 首さかかってるよ。
優子） えっ？ ほんとだ…。
澄子） 眼鏡、眼鏡。
みね子） もう、ほら、そご！ そご！
澄子） あっ！ あったあった！
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（工場で黙々と働く乙女たち）
優子） 松下さん、来ないんだね、今日。
幸子） うん。何か本社に用事があるって。
だがら遅れるって。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
松下） あ…。
愛子） ご苦労さまです。
松下） 愛子さん…。
愛子） はい。
松下） 悔しいです。俺…俺…。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（ベンチに並んで座る愛子と松下）
愛子） そうでしたか。
松下） すみません。力不足で。
愛子） そんな顔するな！ 男だろ、松下明！
ちゃんとしっかり、あの子たちに話を
する。それも君の仕事でしょう。本当
にもう、入社した時から変わってない
なぁ。しっかりする！
松下） ハハハ…。愛子さん…。
はい、分かりました！
愛子） うん。行ってらっしゃい。
松下） はい。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
松下） 皆さ～ん。
作業終えたら、集合して下さい。
一同） はい。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
幸子） 全員集合しました。
松下） ありがとう。
（工場の中に入る愛子）
松下） 皆さん、今日も一日、ご苦労さまでした。
一同） ご苦労さまでした。
松下） 皆さんに、大変、つらいお話をしなけれ
ばならなくなりました。昨今の、業績不
振により、向島電機は、倒産することに
なりました。ただし、債権者の意向で、あ
と１か月、残っている部品で、ラジオを生
産します。この、向島工場は、12月20日
をもって、閉鎖致します。再就職につい
ては、関係会社にもご協力頂いて、でき
る限り、支援致します！ 工場の操業は、
12月20日までですが、寮にいる者につい
ては、すぐの退去は難しいと思いますの
で、年明け、しばらくまでは、いられるよ
うにします。
（ざわめき）
幸子） それは…。それは…決定なんですね？
もうどうにもならないんですか？
私たちが今日から寝ないで頑張っても、
もうここでは働けないですか？ ここにい
る仲間とはもう別れなきゃいけないんで
すか？ もう、無理なんですか？
松下） 申し訳ない！
幸子） 分かりました。
お父さん…。
頭の中が、真っ白になりました。
何だかポカンとしてしまって…。
何をどう考えていいやら、
さっぱり分からなくて…。
お父さん…。
工場、なくなります。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
愛子） ごめんなさい。みんなを守るのが私
の仕事なのに、何にもできなくて…。
澄子） 愛子さんのせいでねえよ。
愛子） ありがとう。今の私の仕事は、みんな
の不安な気持ちを少しでも減らすこと。
再就職については、本社から人事の
人が来るから、その人と話して。でも、
どうなんだろうとか、心配なこととかあ
るだろうから、何でも相談して。
一緒に考えることしかできないけど。
相談してください。
（頭を下げる愛子）
愛子） つらいけど、下を向くのはやめよう。
あなたたちはね、みんなしっかり働け
る子だよ。ちゃんと頑張った。それを
誇りに思おう。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（みね子の書きかけの手紙）
「お母さん、寒くなってきましたが、
お変わりありませんか？
今度のお正月には、帰ります。
30日には帰れると思うので、
おせち料理作りも手伝いますよね。
楽しみです。ここのところ、お母さん
の作ったお雑煮が食べたくてしかた
なくて、ついに夢にまで出てきてしま
いました。それから…」。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
みんなそれぞれ、思い思いに自分のやりたいこと
をやっている時間。バラバラのようで、一緒にそこ
にいた時間が何よりも掛けがえのない時間だとい
うことが失った時に分かるのだけれど…。学校や、
会社で、いつも仲間がそこにいて、一緒に過ごす
のが当たり前で…。そんな普通がずっと続かない
ことは分かっていても、やっぱり続くものだと信じ
たくなってしまうんだよね～。分かっちゃいるけど
やめられない、とまらない、かっぱえびせんの罠。
優子の「私の手拭い」から、「眼鏡眼鏡」は澄子の
渾身のギャグかと思ったよ。本気で眼鏡を見失っ
ていたついでに豊子の歯磨き粉が落とされるコン
ト劇場がいい。豊子の表情が可愛いったらもう～。
ここにいる仲間とはもう
別れなきゃいけないんですか？
幸子の言葉が胸に刺さる。向島電機が倒産して
しまうということは、乙女寮の乙女たちに会えなく
なってしまうということ。そんなの嫌だよ～寂しい
よ～。澄子と豊子のじゃれ合いが見られないなん
て。あの６人がいる空間から、離れたくないよ～。
愛子が松下が入社した時から知っていること。先
輩らしく励ましながら、自分も涙をこらえる愛子さ
んに、ウルウル。いろいろあるのが人生だけど…。
自分もそうしてきたとはいえ、かけがえのない時
間が終わるのは、とても切なくなってしまうよね…。
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