SWITCHインタビュー 達人達(たち) 「佐藤健×木皿泉」 | 日々のダダ漏れ

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SWITCHインタビュー 達人達(たち)
「佐藤健×木皿泉」



(注) 脚本家、木皿 泉(きざら いずみ)は、
    和泉務(いずみ つとむ)と妻鹿年季子
    (めが ときこ)の
共同ペンネームです。

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(2人の対談の中から、私の印象に残った部分、
残しておきたい部分を抜き書きしてあります。)

妻鹿) 私、すごい当て書きするんだけど、本当に佐
    藤さんの書いた時だけは、本当、当て書きで
    きなかったのよ。
和泉) 謎だった。
    ものすごくミステリアスな存在だった。
妻鹿) 芝居が全然違う。
    私が思ってるのと全然違う芝居する。
佐藤) それ何か聞いたんですけど、
    何でなんですかね?
妻鹿) え~わかんない。
和泉) 想像ができないんですよね。ご自身で、どう
    いう風な…自分の事どんな性格だと思ってる
    んですか?
妻鹿) 単刀直入…単刀直入だ!
佐藤) 僕はもう、台本のとおりに…。
和泉) 自分の性格。
佐藤) 性格ですか? 性格、どうなんでしょう?
妻鹿) でも、やっぱり…芝居の上で苦手なのって
    ないでしょ? だって。
佐藤) いや…ありますよ。たくさん。
    笑うのとか苦手ですよ、結構。
妻鹿) あっ、そうなの? 
    笑って下さいっとかってことで?
佐藤) そうなんですよ。なんか、そう、笑うのが…。
妻鹿) ダメなんだ? 笑うのダメなんだ。
佐藤) 好きじゃない、得意じゃないですね。
和泉) 悪役はどうですかね?
佐藤) …の方がやりたいです。むしろ。多分そっち
    の方が、得意か不得意かで言うと得意ですね。
    どちらかと言うと…いい子で元気で明るくてみ
    たいなほうが苦手です、僕は。さっきの話にち
    ょっと戻りますけど、あて書きをしずらい俳優。
妻鹿) しづらいんじゃないの。
    しづらいじゃない、できない。
佐藤) できない?
妻鹿) 無理。何か、佐藤さんの受けの芝居って言う
    かね…。なんか、うん。こう、前へ前へって感じ
    じゃないじゃん。
佐藤) 台本読んだ時に、これはもうリアクション芸だ
    なと思いました。いかに俺がリアクションするか
    にかかってんなと思いました。

**********

妻鹿) ずっこけるっていうシーンがあって。
佐藤) ずっこけるみたいなのは…
妻鹿) すごく上手にこけて。
和泉) ナンセンス喜劇とかね、あるいはスラップ
    スティック喜劇とか目指したらどうですかって。
佐藤) 思い描いた深井平太像が、
    全然違う深井平太像だったと…。
妻鹿) 違う。そうじゃなくて、私がやっぱり役者さんだ
    ったらこうやるだろうなとか、こういうシーンでこ
    う書いたら、こういう風にきっとやるだろうなって
    いうのが…。
佐藤) えっ、何で違うんですか?
妻鹿) 言っちゃうと、本当に、佐藤さんが、ジャンル
    に、何かパターンにはまらない俳優さんだと思
    いますよ。多分ね、芝居そのものが。だからね、
    やっぱりどうしたって、過去のやってきた人の、
    俳優さんの芝居とか、そういうものを踏襲もす
    るし…もちろんしてんだけど、やっぱり、よく見
    てるものの上になり立って、自分の芝居やって
    ると思うんだけど、どうも違うんだよね。何をベ
    ースに芝居してるのか私よく分からないんだよ
    ね、本当に
佐藤) 台本を読む時に、こう画が見えるじゃないで
    すか。絵を想像しながら、読んで、それを…
妻鹿) 怖いこと言わはるわ。
佐藤) 実現っていうか、体現してるので。
妻鹿) マジで?
佐藤) 結構そうですよ。
    もう読んだ段階でもう超見えますもん。
和泉) 降りてきてはんねん。
妻鹿) 私も書いてる時全部見えてる。
和泉) 何か降りてきてはんねん。
妻鹿) だからやっぱりそう…
和泉) そういうタイプだ。
    じゃあ、おこがましいけど、同じですね。
佐藤) 光栄です。同じだけど、想定してたのとは違う。
    でも、あの、「Q10」の世界観とか、本当に大好
    きです。
妻鹿) ああ、そう。
佐藤) だから、共感しまくりです。だから、Q10に関し
    ては、台本を映像化するにあたって、本を超え
    る事が目標だった。

**********

佐藤) 改めて読んでも、本当に面白いですね。
妻鹿) 面白いですか?
佐藤) 特に4話、の宇宙の話。

月子) この世界に永遠はない。
    いずれ宇宙は終わる。
平太) 宇宙って、終わりがあるの?
月子) 宇宙には暗黒物質が23%、
    暗黒エネルギーが73%。
平太) 何だよ、それ。ほとんど暗黒じゃん。
月子) 私たちが物質と呼んでる物はわずかに4%。
    残念なことに、時間とともに、暗黒エネルギー
    は増えていくの。

平太) 今分かった。この世のほとんどは、どうでもい
    いことと、どうにもならないことで出来ている。
    だから、大切なものは、心から大切だと思うも
    のは、しっかりと抱き締めて…。俺は今…宇宙
    の4%を抱き締めている。

佐藤) 俺は今、宇宙の4%を抱き締めてるってモノ
    ローグ…今言っただけで鳥肌立つぐらい。
妻鹿) きざなセリフだよね。
佐藤) モノローグ読むじゃないですか、僕は。アフレ
    コの部屋で。でも、毎回読むたびに、何回読ん
    でも鳥肌立っちゃって、うまく言えなかったです。
    モノローグが。
妻鹿) でもそれだけの事をイメージできるのは本当
    すごいよね。だって、イメージしてるから鳥肌
    立つんだと思うんだよね。だって本当に、宇宙
    の4%だからね。
佐藤) そうなんですよ。
妻鹿) それを思うと、やっぱり鳥肌立つ…
佐藤) そう、内容もそうだし…言葉のリズムたいなの
    も大事じゃないですか。それも含めて…。
妻鹿) そういうの、ちょっとうまいんだよね、私。
佐藤) 本当に秀逸なモノローグだなと思って。今回
    改めて読んでも、やっぱ同じところでゾワって
    なりました。
妻鹿) あれがクセモノで、ドラマは、はっちゃかめっ
    ちゃかでも、もう好きなとこ行って、やるんだけ
    ど、あのモノローグで戻っていけるっていう。
    それは山田太一先生からパクりました。その
    方法は。
佐藤) なるほど。本当にいいですね。
妻鹿) あの、何て言うかな。ダークマターが、実は
    96%ぐらい…暗黒物質と暗黒エネルギーが
    合わせて96%ぐらい、物質は4%しかないみ
    たいな事を、NHKで、普通に流れてた事の方
    が、私には凄い衝撃で。テレビで見た訳です。
    そういう事。
佐藤) 書く前に?
妻鹿) 書く前にというか、ちょうど書いてる頃かな。
    書く前ぐらいに、宇宙の話をされてて、本当に
    その日常のある…日常性のテレビの中で、そ
    んな「暗黒物質が96%で、物質が4%しかあり
    ません」みたいな。で、「宇宙はいずれ、潰れ
    ますよ」みたいな話を、平気でしてるんです。
佐藤) それを見て、書こうって思ったんですか?
妻鹿) これを見た瞬間に、これドラマできるやん! 
    これまだやってないやん誰も!って思って。
    やった!と思って。

**********

佐藤) あるんですか? テーマ、自分の仕事で
    表現したいことみたいな。
妻鹿) 基本的にはないよね。
佐藤) ふ~ん。
    降りてきたのを書くっていう事ですか?
和泉) 頼まれたらやってるわけだから。
佐藤) なるほど。
妻鹿) でも、自分が書きたいようにやるから、最終
    的にはそうなっちゃうんだけど。私がずっと若
    い時から思っているのは、日常についてだよ
    ね。日常って、子どもの頃はホントに退屈だし、
    つまんないし。もう14歳ぐらいの時に、今死ん
    だっていいじゃんって思ってて。何でみんなそ
    んな年取ってまで生きなきゃいけないとかって
    いう理由が全く分からなくて。思えば…私の人
    生は、それを知るための人生というか。この人
    に会って、結構プロセスなんだなっていう事が
    分かるまでにすごい時間がかかっちゃったん
    ですね。作品自体は、そこまでのゴールみた
    いなことが大事だって、やっぱり学校とか教え
    るじゃないですか。成果主義というか。でも…
    何ていうかな、勝ち負けというかな…その歳を
    とるまでのプロセスが、すごく楽しいんだってこ
    とが、歳をとっていくごとに分かってきて。たぶ
    んだからそういうことをドラマに書いてるのかな。
    だからそんなに、テーマ的にどうのこうのとか、
    あんまりこれを伝えようみたいな感じっていう
    のは、あんまりなくて。どっちかっていうと私た
    ちは…何か伝えようって思うのは、ろくでもない
    感じがして。
和泉) イデオロギーとかね、
    テーマ主義じゃないです。僕らは。
妻鹿) 意外と…作るけどね。何か孤独について書こ
    うとかね、そりゃ作るけど。でもだからといって
    それがこうですっていうことを言うんじゃなくて、
    もし孤独って言うのがテーマだったら、それに
    ついて書いてるうちに、「孤独って何だろう?」
    とか、自分で考えていくっていうか。だから書く
    ことは基本的に考えることっていうか。自分で、
    答えを見つけることなんですよ。
佐藤) なるほど。

**********

妻鹿) 実際に自分が言いたい事が最初からあって、
    それを書いて、やっても、たぶん見てる人は、
    借り物の言葉だから、みんな感動もしてくれな
    いし、すぐ忘れちゃうし、別に見たくもないと思
    うんだよね。でも、すっごく一生懸命考えて、た
    とえば孤独ってテーマってず~っと考えて、実
    は孤独とはこういうことじゃないかいうことは、
    考えて考えてドラマを通して考えているうちに、
    ふと出る時があるんですよ。この、自分でも思
    わないようなセリフとか。「みじめで、泣きたい
    ような時でも幸せだと思う瞬間がある」っていう
    のは、ああいうようなセリフは、やっぱり、ずー
    っとその中の人になって書いてて、ようやく出
    てくるようなセリフで。そうすると、ちょっとそこ
    に真実みたいなものがあると、みんな共感して
    くれるので。一種の発明っていうか、発見みた
    いなセリフに、みんなやっぱり、共感してくれる
    みたいですね。
佐藤) 生活も仕事もご一緒にされてて、
    大変なこととかはないんですか?
妻鹿) 本当は仕事したくなくて、普通に、24時間ベ
    ラベラベラベラ小学生の時みたいに、机後ろ
    にして喋ってる感じあるじゃないですか。あん
    な感じでずっと喋っているのが本当は楽しくて。
    もう大体あれだよね。朝起きて早く来てね。ち
    ょっと朝仕事して、で、朝ご飯食べて。ちょっと
    家の用事して。トムちゃんとまたここでグジャ
    グジャして。昼ちょっとまあ出かけたり、ここで
    やったりして、みたいな感じで…。
    日常生活、だからむしろ。

**********

佐藤) 今回(「Q10」の)台本を改めて読み返して、懐
    かしいなと思って、面白いなと思ったのが、6話
    で…6話かな、7話か6話でキスシーンがある
    じゃないですか。それのト書きが…。
妻鹿) あ~思い出した。
佐藤) 「唇をとがらせて、唇と唇を触れさせる。カッコ、
    つまりキスですね」、みたいに書いてあって。何
    これ?って思って。突然そこだけ何か木皿さん
    のメッセージみたいな。
妻鹿) 要するに、もう、キスって書いちゃったら…キ
    スシーンですって書いちゃったら、私の手に負
    えないとこのキスシーンになっちゃうじゃない
    ですか。その人たちが考えるキスシーンになっ
    ちゃうと、そこのキスは、やっぱりちょっと、そう
    いうキスじゃないんだよねってというのがすごく
    強くて。本人達はキスだと思ってなかったけど
    キスになりました、みたいなキスだよっていう、
    メッセージですよね。
佐藤) なるほど。絶妙に表現してますよね。
妻鹿) カッコつまりキスですね。って書いたのは。
佐藤) なるほどなるほど。
妻鹿) そういうのは書きますね。やっぱりどうしても。
    ここ、基本的にアップにしてもらいたくないなと
    かいう時もやっぱり、書き方で、ここはアップに
    しないような書き方とか。アップにしてほしいな
    って思う時、でもアップにして下さいって書くの
    は嫌なのよ。だってそれって、仕事を踏み外し
    てるじゃないですか。何か、踏みこんじゃって
    るというか、それは演出の方の仕事だし。あと、
    役者さんにここで泣いて下さいっていうのも、
    ちょっと実は、本当は書きづらくて…。ここでち
    ょっと、笑って下さいって、そういうのは…嫌。
佐藤) そこは、ある日気づいたんですよ。これにとら
    われた瞬間終わるなって言うふうに、2年目か
    3年目かぐらいに時に気づいて…。
妻鹿) 偉い。それは偉い!
佐藤) でも、カッコ何とかとか、カッコ泣いてとか、あ
    と意外にみんなとらわれがちなのが、ビックリ
    マーク。台詞のあとの点点点とビックリマーク
    に、意外にとらわれがちで、僕もすごく、ダメだ
    なと思うんですけど、自分で。ビックリマークの
    顔しちゃうんです、そこで。
妻鹿) いや~そっか! ごめんごめん!
    私じゃあ、やめとくわ、もう。
佐藤) あれに結構引っ張られて、何か、突然、「あ、
    芝居した」みたいな風に、なりがちなんですよ、
    どうしても。
妻鹿) 分かった。分かる。ごめんね。
    本当に気をつけよう。
佐藤) だって、本当は、同じ時間軸で流れてるのに、
    時間軸をこっちこっち、こっちこっちってされる
    から、何かそれにとらわれちゃうんですよね。
    だって、その人が話してる時の、点点点なのに、
    話し終わったあとの点点点だと勘違いしちゃう
    っていう…。話してる最中のビックリマークなの
    に、話し終わった後のビックリマークだと、勘違
    いしちゃうから。だから、あの、順番にセリフを
    書くんじゃなくて、縦にやるっていうのはどうで
    すか?
妻鹿) 本当はそうしたいんだよ。数学的ですね、本
    当に、頭が。仰るとおりなんですよ。その通り
    なんですよ。あれは便宜上、そういう風にしな
    くっちゃいけないから。でもそんなことを考えて
    いる俳優さんとお話したのは私生まれて初め
    てですけど。
佐藤) いや、僕いつもやる時にね、葛藤なんですよ。
妻鹿) おっしゃるとおりだよね。何か、自分で撮った
    り書いたりという気持ちは全くないんですか?
佐藤) ないというか、
    出来たらやりますけど、出来ない。
妻鹿) でもね、
    映像が見えてるんだったら出来るよね。
佐藤) いや~…。100年かかったら出来ます。多分。
妻鹿) えっ? 読まないと映像はダメなんですか?
佐藤) だから僕多分…与えられた、誰かが書いた
    本を見てよりよくすることはできると思うんで
    すよ。
妻鹿) プロデューサーじゃん。
佐藤) だけど…何にもない真っ白な状態で、はい
    やってと言われたら、本当に出来ない。
    誰かが0から1にさえしてくれれば、2にして
    3にしてっていうのは。与えられた2を1のま
    まやる人もいるだろうし。
妻鹿) いますね。
佐藤) 僕は、割と、3にしたい4にしたいって言って、
    やっちゃうタイプです。
妻鹿) 本当に自分の思ってるのと体現して演技して
    るのって、あんまり変わらないんですか?
佐藤) もちろん、シーンによりますよ。僕が思ってた
    のは、違うけど、監督がこう言うから、こうやる
    っていうみたいなのよくありました。後は、やっ
    ぱり…現場に来た瞬間、俺の「思ってた画と違
    う」てのはよくある。
妻鹿) それもう分かるんだね。見たら分かるんだ。
    あっ、考えてくるんだよね。そりゃそうだよね。
佐藤) そうですそうです。で、でもそれにとらわれ
    すぎないように気をつけますけど。
妻鹿) でも全然違う時って、本当困らないの?
佐藤) 困るけど、でも、
    また1から組み立て直すって感じ。
妻鹿) その場で? 現場で?
佐藤) そうです。現場で。
妻鹿) あ~それはすごいな。
    そういう事出来るんですね。
佐藤) 時間かけますね。
    そこには結構時間かけます。

**********



妻鹿) 泣いて、笑うっていうのは…。
    何かちょっと、意図かなんか…
佐藤) 何か、全然、全く意図してなくて、むしろ、芝居
    してる時は、静かに死んでいこうと思ったんで
    すよ。むしろ台本読んだ時の絵が浮かぶじゃな
    いですか。その浮かんだ絵は、もう無表情で、
    もちろん涙も出さず、死んでいこうと思ったんで
    すよ。だけど現場でああなっちゃったんですよ。
妻鹿) あの、トコトコトコトコ歩いてる時はどう考えて
    たの? 歩いてる時ももちろんその感じです。
    無表情で死んでいこうと思ったんですけど…
妻鹿) いざとなると…
佐藤) だから僕…
妻鹿) 泣くのもなしだったの?
佐藤) なしっつうか、全然そんなプランもなくて。
妻鹿) 泣くのもなしだったの。あっ、そう。
佐藤) だから俺、あの芝居してる時の、俺の脳内は、
    「えっ? やべえ、やべえ。何これ?」みたいな
    感じ。全然何か、俺ダメだ。これ終わったら監
    督にもう1回やらせて下さいって言おうと思って
    るんですよ。
妻鹿) あんだけ出ちゃったんだ、涙が。



佐藤) そう。何か、よく分かんない不思議な気持ち
    で、終わって、で、本当にその後に、ベース戻
    ってごめんなさい監督、全然集中できなかった
    んで。
妻鹿) え~集中してないの? あれ。してるよ!
佐藤) もう1回やらせて下さいって本当に言いに行っ
    たんです。そしたら、監督とかはすごい盛り上
    がってるんですよ。監督は「いや~よかったよ」
    みたいな感じで、「えっ、マジ? でも一応もう一
    回やっとく?」みたいな感じで。
妻鹿) 本人が言うならね
佐藤) そう。
妻鹿) じゃあ、これはどうしてこうしたかってのは…。
佐藤) だから僕が本当に思ったのは、以蔵さんが
    憑依、降りてきてくれたんだと思ったんです。
    マジで。
妻鹿) そうだよね。
佐藤) あの、だから、ホント乗り移り?
妻鹿) そうなんだ。
佐藤) 結果、いろんな方が、「あの死ぬとこよかった
    よね」みたいな事を言ってくれるから…。
妻鹿) 今でも納得してないの?
佐藤) ある意味の、みんながよかったと言ってくれる
    から良かったってのはありますけど…。
佐藤) 俺は、何にも芝居してないですよ、マジで。
妻鹿) 納得してないの?
佐藤) 納得っつうか、
    俺は本当何もしてないって感じ。
妻鹿) ああそう。自分の中でそんな感じなんですね。
佐藤) そうですね。役者やってても、そんなふうに思
    ったのはここだけなんですけど。でもこういう事
    ってあるんだなと思いました。やっぱり実在の
    人だし、現場に力があるから。大友さんが最高
    の環境を与えてくれるから。それで、ずっと、何
    か月かかけて撮影していたから。最後に以蔵
    さんが、本当に降りてきてくれたんだなと、今で
    は思ってます、僕は。他に毒まんじゅう食べる
    シーンがあって、それは、台本を読んだ時に浮
    かんだ絵を体現したっていう感じで。

**********

妻鹿) なるほど。これはすごい考えて。
佐藤) これは考えたっていうか、そのプランがあっ
    て、それをやったっていう…。だから…僕から
    したら、こっちを褒めてくれる方がうれしい。
    僕からするとっていう感じです。
妻鹿) でもね…それは良くない考えだと思うよ。そ
    の苦労した方が、良いって思うのは、間違い。
佐藤) 分かります。エンターテイメントとしては。
妻鹿) 私たちの世界は、結果がすべてだから。
    納得いかないのはすごく分かるけど…。
佐藤) 全然納得いかない訳じゃないですよ。
    俺、ホントに何もやってないから。
妻鹿) ハハハハハッ!
佐藤) 現場の力だから。現場を褒めてあげてくださ
    いっていう感じ。
妻鹿) ああ、なるほどね。でも、そういう力は信じて
    いるんだよね。現場の力とかそういうものは。
佐藤) いや、間違いなくあります。
妻鹿) それはあるよね。私もそれは信じてるもん。
    本当に書きなぐってるだけだし、もう時間が来
    て、しょうがないからバ~ッてやってるだけな
    んだから。それを現実にしてる人たちが、本当
    に偉いに決まってるんだからって言っても、そ
    んな本当に命を削って…いや削ってない、削
    ってないって言うのは、私の場合はすごくしょ
    っちゅうありますね。だから本当にそんなに評
    価されるような事は、してないよっていうのは、
    あるけれども…。でもこんなしんどい仕事をし
    てる人の中にも、そういうのがあるんだなって
    いうのはちょっと…。
佐藤) よくあります。よくあります。
妻鹿) これ以外にもあるんだ。
佐藤) よくあります。そっちの方が…まあ、両方あり
    ますね。してやったりと思う事もあるし、こんだ
    けやったのに全然ダメだったって時もあるし。
    何もやってないのに評価されることもある。
妻鹿) 分かる分かる分かる。
佐藤) いろいろある。
妻鹿) だから、本当に人ってどうとってるかホント
    分かんないことは分かんないよね。
佐藤) みんなで作るじゃないですか。ドラマとか。
妻鹿) そうだね。
佐藤) みんなで作るから、本当にね、自分、個の力
    なんてね、全然大したことないっていう。
妻鹿) 本当そのとおりですよね。なかなかそうは言
    っても、額面どおりにはとってくれないだろうね。
    ほんとにそう思っているの、
    私はよく分かりますよ。

**********

妻鹿) 最終的にどうなろうとかあるんですか?
佐藤) えっと…ないですもん。てか、その、先のこと
    を考えてもナンセンスだなと思います。10年後
    とかの事を。
妻鹿) つまり先は変わっちゃうからって事?
佐藤) そう。
妻鹿) どうなるか分かんないって事?
佐藤) 人間の感情ほど不確かなものはないじゃな
    いですか。あの、人間の感情って、何か本読
    んだら、光の速度の17倍の速度で、人の気持
    ちって変わっていく。
佐藤) 超速え!
妻鹿) 超速いの! 
佐藤) 光の17倍ですか?
妻鹿) 仏教の本に書いてあるらしいんだけど。 
    光の速度の17倍だよ。
佐藤) 光より早いってことは、タイムスリップしちゃう
    って事ですかね?
妻鹿) 気持ちだけはね。体はついていかないけどね、
    気持ちはそれぐらいの速度で、ガ~ッて変わっ
    てるもんですよね。
佐藤) だから、そんな速いものの、10年なんて年月
    考えても、今考えても絶対意味ないなと思いま
    す。だから、どうなりたいかって言うと、その時
    にやりたい事をやってたいなと思います。
妻鹿) 10年後もね。
佐藤) 10年後も、10年後の俺がやりたいと思ってい
    ることを、やってたいと思うけど。今、現時点で
    こういう大人になりたいとかは、ない。ないとい
    うか、考える事があんまり、意味がない事だな
    って思う。
妻鹿) 目立つ人みたいな事、あんまりないんですね。
    でも、それ言っちゃったらね、それになんなきゃ
    いけないもんね。
佐藤) そうですね。ぼんやりとこう、スマートな人に
    なりたいなとか、そういうのはあります。
妻鹿) 粋な人って事?
佐藤) 粋な人。
妻鹿) 粋な人。スマートな人?
佐藤) スマートで、かつロックで。
妻鹿) あっ、ロックな人?
佐藤) そうです。
妻鹿) あ、ロックなんだね。
佐藤) ロックってのは、僕の座右の銘的なことなん
    ですけど。ロックに生きるっていうのは。
妻鹿) 何か、納得。何となく分かった気がしたのは…
    誰の真似でもないって事だと思いますけどね。
    当て書きができないっていうのは。ホントに最
    後までできなかったよ。でも、自分の想像を、
    超えたことをする人がいるっていうのは、本当
    に頼もしいことなんですよ。本当にこれは嬉し
    いことだし、すごく希望の持てることなんですよ。
    私、まだまだできるかもしれないって、思える。
    本当にそういうことでもあるので、まだまだ、書
    くべきことはあるし、まだまだやらなきゃいけな
    い事もあるし、勉強しなきゃいけない事あるん
    だなと思いますけど。
佐藤) 期待しております。次も。
妻鹿) はい。頑張ります。

**********

妻鹿) 本当に想像している以上にいろんなことを考
    えている。考えてるけど、その考えていること、
    その考えにとらわれないで生きてる人なんだ
    なあと本当によく分かりましたね。やっぱり、と
    らわれてないっていうのは偉いなと思いました
    ね。本当に、まだ若いのに。できれば今度は
    もうちょっと、真剣勝負というか、負けたくない
    なっていうのは、ちょっとこんだけ話すと、結構
    思いますね。何か、今度やる時は絶対負けね
    えぜって感じで。

**********

木皿泉名義の脚本のドラマが、何となく好きだなあと
自覚してはいたものの、脚本家の実像を知らずにき
たので、非常に興味深く、面白かったです。ホントに。

一緒に語るのはおこがましいと思いつつ、私もどちら
かと言えば、「降りてきた」ものを書くタイプなので、そ
ういう親近感を感じつつ、ああ、だから、好きなんだな
あと納得したりして。佐藤健君が例にあげていたセリ
フは、ドラマを観たはずだけど、忘れていたセリフで。
改めて、そのセリフの由来を聞くと、鳥肌が立つのも
わかるなあと。96%が暗黒物質で、物質は4%しかな
いって…。それは、確かにすごいことだなあと。宇宙
の事を考えると、子供の頃から何だかとても怖くって、
宇宙に浮かぶ惑星の上に立っているちっぽけな自分
を自覚してしまうというか…どうしようもなく寂しくなっ
てしまうのだけれど…。宇宙の中で、物質が4%とい
う具体的な数字は、そういう、忘れていた宇宙に対す
る畏怖を思い起こさせるというか。いずれそんな宇宙
が終わってしまうとか…うわぁあああ!っていうか…。

歳を取ってまで生きなきゃいけない理由が分からなか
ったという妻鹿さんが、歳をとっていくまでの
プロセス
が楽しいんだって事が、歳をとるごとにだんだん分か
ってきたっていうのが、
共感と言うか、分かるなあって。

そして、先のこと、10年後のことを考えるのはナンセ
ンスだと言う佐藤健くんの考え方が面白かった。確か
にね、10年後事を考えても意味がないというか、10年
前、ぼんやりと考えてみたかもしれない未来は、覚え
てないし、思い出す必要も感じない。10年後の事より、
明日の事や1週間後、せいぜい1ヶ月後ぐらいの事が
現実的な未来かもしれない。やるべき事、やりたい事
を、一つずつやっていく先に、10年後があるんだよね。
な~んて事を、健くんの言葉から改めて考えたりした。

そして、健くんと話をして、やる気が出てきた妻鹿さん
の気持ちがすごくよく分かって。刺激を受ける人って
いるなあと。そういう人に出会えると、力が湧いてくる
っていうか、未来を目指す気力が湧いてくるんだよね。
個人的にも、刺激を受けたインタビューでありました♪