りんくのページ へ ◆もくじ1へ (ガラパロ他) 
もくじ2へ(スキビ1)もくじ3へ(スキビ2)
もくじ5(スキビ3)   ◆目次7へ(スキビ4)
もくじ8(スキビ5)
もくじ4へ(いろいろ)  ◆もくじ6(ガラパロ2)


Kierkegaard
(心の目でみれば、マスマヤさ)

漆黒に、白い蝶

違う

マグノリアだ

***

おんぼろアパートの窓から月を眺める。

真っ白な、いや、蒼白の月だ。

体に流れる血が騒ぐ、誘われる。

そっとアパートを抜け出し、公園へ急ぐ、風が、花びらを運ぶ。

掌に受け取った花は、みどりの白、白蓮だった。

花の季節は、終わったはずなのに、どうして。

花に誘われるように、足が勝手に動いた。

黒い鉄製の門柱の先に、その花木はあり、ギーと門が開く、花に誘われるように、マヤはその門をくぐった。

古い洋館は、人が住まなくなり久しいのだろう、どこか荒れ果てていた。

風にのり花が舞う、マヤの体を白い花が包んだ。

***

「GPSの反応が消えた」

とある(略)真澄は、携帯のGPS表示が消えた場所へ、車のハンドルを向けた。

カーナビは、古い屋敷の地図を示した。

以前、義父から聞いたことのある名前の屋敷だった。

「マヤ、どこだ」

白い花が、真澄を案内する。

花の下に、女がいた。

「マヤ、どうした」

聞こえているはずのマヤは、振り向きもしなかった。

真澄は、駆け寄りマヤを抱きしめる。

だが、ふわりとマヤの体がすり抜ける、振り向いた顔は、いつものマヤでない、誰かの顔が浮かぶ。

「兄様、待っていたのに、どうして」

「マヤ、俺だ」

「兄様のばか、だから、私は」

ふわり、マヤは、白い花木の枝に飛びあがった。

「降りて来い、バカ娘」

女は、嫣然と笑み、男を誘う。

「囚われたか、仕様がない」

真澄は、上着を脱ぎ捨て、靴をはき捨て、木に登る。

足を掛けた枝がしなる、古い木のようだ、足をすべらしかねないと、心地ながら、女の待つところまで上った。

白い手が、真澄の首にかかる、紅い唇が正面で笑う。

「ふん」

ザッ、真澄が女の手首を掴み、引き寄せた。

真澄の腕の中に女はいた、女が目を見開くより先に、真澄の口が女の口を閉じた。

女の体から力が抜けた。

***

ぺちぺちと音が響いた。

「うーん」とマヤが目を覚ました。

「真澄さん、どうして」

「夢遊病者を捕獲した」

「何それ、私は、散歩をしに、ここはどこ」

マヤは、見慣れない場所に目をくるくるさせた、先ほどまであった、花はどこにもなく、静かな暗闇だけがあった。

くしゅと真澄がマヤの頭を乱暴になでた。

「帰るぞ」

「真澄さん痛い、私、どうして」

「花楼に囚われたんだ」

***

約束を違えた恋人を待ち続けるうちに、花楼に囚われた少女の話を以前、耳にした。

恋人は、間に合わなかった、だが、花楼に囚われる少女を、真心で救い出したとも。

あの屋敷は、取り壊しが決まったと伝え聞く、屋敷が、花の残像を見せたか。

真澄は、傍らのマヤを抱きしめ眠りについた。

コトリ、マンションの窓辺に白い花の枝が一枝、風に揺れた。



***

東北では、白蘭は、今が満開なのである。