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(心の目でみれば、マスマヤさ)
漆黒に、白い蝶
違う
マグノリアだ
***
おんぼろアパートの窓から月を眺める。
真っ白な、いや、蒼白の月だ。
体に流れる血が騒ぐ、誘われる。
そっとアパートを抜け出し、公園へ急ぐ、風が、花びらを運ぶ。
掌に受け取った花は、みどりの白、白蓮だった。
花の季節は、終わったはずなのに、どうして。
花に誘われるように、足が勝手に動いた。
黒い鉄製の門柱の先に、その花木はあり、ギーと門が開く、花に誘われるように、マヤはその門をくぐった。
古い洋館は、人が住まなくなり久しいのだろう、どこか荒れ果てていた。
風にのり花が舞う、マヤの体を白い花が包んだ。
***
「GPSの反応が消えた」
とある(略)真澄は、携帯のGPS表示が消えた場所へ、車のハンドルを向けた。
カーナビは、古い屋敷の地図を示した。
以前、義父から聞いたことのある名前の屋敷だった。
「マヤ、どこだ」
白い花が、真澄を案内する。
花の下に、女がいた。
「マヤ、どうした」
聞こえているはずのマヤは、振り向きもしなかった。
真澄は、駆け寄りマヤを抱きしめる。
だが、ふわりとマヤの体がすり抜ける、振り向いた顔は、いつものマヤでない、誰かの顔が浮かぶ。
「兄様、待っていたのに、どうして」
「マヤ、俺だ」
「兄様のばか、だから、私は」
ふわり、マヤは、白い花木の枝に飛びあがった。
「降りて来い、バカ娘」
女は、嫣然と笑み、男を誘う。
「囚われたか、仕様がない」
真澄は、上着を脱ぎ捨て、靴をはき捨て、木に登る。
足を掛けた枝がしなる、古い木のようだ、足をすべらしかねないと、心地ながら、女の待つところまで上った。
白い手が、真澄の首にかかる、紅い唇が正面で笑う。
「ふん」
ザッ、真澄が女の手首を掴み、引き寄せた。
真澄の腕の中に女はいた、女が目を見開くより先に、真澄の口が女の口を閉じた。
女の体から力が抜けた。
***
ぺちぺちと音が響いた。
「うーん」とマヤが目を覚ました。
「真澄さん、どうして」
「夢遊病者を捕獲した」
「何それ、私は、散歩をしに、ここはどこ」
マヤは、見慣れない場所に目をくるくるさせた、先ほどまであった、花はどこにもなく、静かな暗闇だけがあった。
くしゅと真澄がマヤの頭を乱暴になでた。
「帰るぞ」
「真澄さん痛い、私、どうして」
「花楼に囚われたんだ」
***
約束を違えた恋人を待ち続けるうちに、花楼に囚われた少女の話を以前、耳にした。
恋人は、間に合わなかった、だが、花楼に囚われる少女を、真心で救い出したとも。
あの屋敷は、取り壊しが決まったと伝え聞く、屋敷が、花の残像を見せたか。
真澄は、傍らのマヤを抱きしめ眠りについた。
コトリ、マンションの窓辺に白い花の枝が一枝、風に揺れた。
了
***
東北では、白蘭は、今が満開なのである。
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漆黒に、白い蝶
違う
マグノリアだ
***
おんぼろアパートの窓から月を眺める。
真っ白な、いや、蒼白の月だ。
体に流れる血が騒ぐ、誘われる。
そっとアパートを抜け出し、公園へ急ぐ、風が、花びらを運ぶ。
掌に受け取った花は、みどりの白、白蓮だった。
花の季節は、終わったはずなのに、どうして。
花に誘われるように、足が勝手に動いた。
黒い鉄製の門柱の先に、その花木はあり、ギーと門が開く、花に誘われるように、マヤはその門をくぐった。
古い洋館は、人が住まなくなり久しいのだろう、どこか荒れ果てていた。
風にのり花が舞う、マヤの体を白い花が包んだ。
***
「GPSの反応が消えた」
とある(略)真澄は、携帯のGPS表示が消えた場所へ、車のハンドルを向けた。
カーナビは、古い屋敷の地図を示した。
以前、義父から聞いたことのある名前の屋敷だった。
「マヤ、どこだ」
白い花が、真澄を案内する。
花の下に、女がいた。
「マヤ、どうした」
聞こえているはずのマヤは、振り向きもしなかった。
真澄は、駆け寄りマヤを抱きしめる。
だが、ふわりとマヤの体がすり抜ける、振り向いた顔は、いつものマヤでない、誰かの顔が浮かぶ。
「兄様、待っていたのに、どうして」
「マヤ、俺だ」
「兄様のばか、だから、私は」
ふわり、マヤは、白い花木の枝に飛びあがった。
「降りて来い、バカ娘」
女は、嫣然と笑み、男を誘う。
「囚われたか、仕様がない」
真澄は、上着を脱ぎ捨て、靴をはき捨て、木に登る。
足を掛けた枝がしなる、古い木のようだ、足をすべらしかねないと、心地ながら、女の待つところまで上った。
白い手が、真澄の首にかかる、紅い唇が正面で笑う。
「ふん」
ザッ、真澄が女の手首を掴み、引き寄せた。
真澄の腕の中に女はいた、女が目を見開くより先に、真澄の口が女の口を閉じた。
女の体から力が抜けた。
***
ぺちぺちと音が響いた。
「うーん」とマヤが目を覚ました。
「真澄さん、どうして」
「夢遊病者を捕獲した」
「何それ、私は、散歩をしに、ここはどこ」
マヤは、見慣れない場所に目をくるくるさせた、先ほどまであった、花はどこにもなく、静かな暗闇だけがあった。
くしゅと真澄がマヤの頭を乱暴になでた。
「帰るぞ」
「真澄さん痛い、私、どうして」
「花楼に囚われたんだ」
***
約束を違えた恋人を待ち続けるうちに、花楼に囚われた少女の話を以前、耳にした。
恋人は、間に合わなかった、だが、花楼に囚われる少女を、真心で救い出したとも。
あの屋敷は、取り壊しが決まったと伝え聞く、屋敷が、花の残像を見せたか。
真澄は、傍らのマヤを抱きしめ眠りについた。
コトリ、マンションの窓辺に白い花の枝が一枝、風に揺れた。
了
***
東北では、白蘭は、今が満開なのである。