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Kierkegaard
(心の目で見よう、マスXマヤである)


20XX年2月2日 15:00


「えーと、待ち合わせの場所は、ここだな」


某つぶやく芸能会社社長は、厳寒の街を足早に、心はうきうきで歩いていた。


地下鉄の出入り口から、紅いコートを着た、マヤが出てくるところだった。


いたずら心を刺激された彼は、気付かれないよう彼女の背後に回った。


「きゃー」


「俺だ」


「もう、子供みたいに」


真澄は、マヤの手を繋いで、裏通りにある、喫茶店に入った。


店主の淹れたこだわりの珈琲の香、古いジャズが流れる、他愛ない会話、いつもの心地よい時間が、流れた。


そう思っていたのは、彼だけだったらしい。


胸ポケットのスマホが、次の予定を知らせる。


「もうすぐ、君の誕生日だな。欲しいものとか、何かある?」


「え、欲しいものなんて」


「何でも、俺に出来ることがあれば」


「そうですね、別れてください」


「え」


「ごめんなさい」


きれいなお辞儀をして、マヤは脱兎のごとく走りさった。


冷たい風が、彼の背に吹いた、ご丁寧に先ほどまで晴天だったのに、雪まで降り出した。


33歳独身男性の悲哀、そう表現するしかない。

(注 11月3日 彼は年をとった)


2/3 1:30


会社近くのマンションの一室、酒瓶が転がっていた。


PCの画面を真剣に見つめる真澄だった。


同日 18:30 都内 某スタジオ


マヤの携帯がメールの着信を伝えた。


「よかった、気が晴れたみたいです」


「ほお、誰の気が晴れたと」


「え」


にんまり鬼の形相をした真澄の顔が、マヤの頭上にあった。


ところどころに、紅いうっ血が見られる。


「真澄さん、これには、じ、事情が」


「社長室で、水城くんから、豆をぶつけられた瞬間に、すべて判ったよ」


「だから、っていうか、仕事どうしたんですか?」


「片付けたさ、俺じゃなくても、対応できる分は、他の役員、社員に割り振ったし」


真澄の顔がマヤの顔に近づいて、強引な口づけに、マヤは、息絶え絶えだ。


今日は、節分、追儺の日


水色の清掃服を身にまとった、背の高い痩せた男の右手がしなった。


ピシッ、真澄の額から血が一筋流れ、そして、ぐらりと沈み込む瞬間、清掃服の男が受け止めた。


「マヤさま、大丈夫ですか」


「聖さん、ここまでする必要があるのですか?」


「あるんです」(きっぱり)


「はあ」


真澄の体をワゴンに乗せると、コロコロ押して行った、マヤもその後をてくてく歩いていく。


「今年の恵方は、北北西だそうですよ」


「あとで一緒に食べます」


「今年は手作りですか?」


聖は、マヤのバッグの風呂敷を指した。


「頑張りました」


にっこりとマヤは笑った、聖も優しく笑み返した。

その夜、真澄のマンションで、マヤにも豆をぶつけられたけど、仲良く恵方巻きを食べて、それなりに楽しい夜を過ごしたのだろう。