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Kierkegaard
(久々に描くと・・・本誌が楽しみ)

その前の話 (1)  (2)

「秋を見に行こう」

真澄から、マヤの携帯へ、連絡があったのは、休日の朝だった。

稽古も休みだったので

「はい、お待ち申し上げています」

とでかい声で叫んでしまった。

「マヤ、近所迷惑」

「ごめん、麗」

マヤは、平謝りした。

何を着ていこう、クローゼットというものでもない、洋服ダンスをひっちゃかめっちゃかにした。

「これは、もしかしたら、デート」

顔が、赤色だこ色になって、頭から湯気が出そうになった。

どきん、どきん、クリーム色のセーター、チェックのミニスカート、そして、麗に貰った、秋色のルージュを鏡を見ながら唇にのせた。

おし、両手を肩から上に上げて、何だか気合いが入ってしまった。

コートを羽織って、間もなくだった、ポケットの携帯が震えた。

耳にあてると、声が聞こえる。

「マヤ、降りておいで」

ホップ、ステップ、ジャーンプ、おんぼろアパートの階段なんて、ひとっ跳び。

休日なのに真澄は、スーツだった。

どうしよう、マヤは、恥ずかしくなったが、秋を見に行くんだもの、いつもの笑顔を真澄に向けた。

ほんの少しだけ真澄の頬が赤くなったのは、木漏れ日のような天気のせいかもしれない。

真澄は、東北道を北上した。

昔からの馴染みの二人の車中は、賑やかだ。

「で、黒沼さんたら、ものすごい食欲なの。焼きそばパンに・・・」

「君も食べたんだろう、少しふっくらしたんじゃないか?」

「ぶもう」

二時間程で目的地に到着した、車を降りて、二人は秋を見に行く。

真澄の手が差し出された、どきんとしながら、その手を取った。

秋色の世界、結んだ手、黄色、赤、橙、錦の色たち。

水音が聞こえる、遊歩道のすぐわきを小川が流れていた、川面を下る、秋の色。

「きれい」

「ああ、美しいなあ」

同じ時間を同じ世界を、一緒に過ごす、とても贅沢だとマヤは思った。

ふと大きな影に覆われた、広い大きな胸が目の前にあった、暖かい、そして何かが口に触れた。

「あう」

くすくすと意地悪く真澄が笑んだ、マヤもつられて笑う。

ぐーとマヤの腹の虫が鳴いたので、食事をして、帰路に。

秋色に包まれた一日だった。

「また、近いうちに出かけよう」

「はい」

「試演を楽しみにしているから、それじゃ、また」

「紅天女になれたら、薔薇の花束を下さい、待っていますから」

ふと真澄の顔が陰った、どうしてだろう、そうマヤは思った。

つづく (4)