Kierkegaard


その前に話  その1 その2 その3 その4 その5

「十数年前、俺の悪友の一人が事故で亡くなった。


深度1000mの海底で、彼の妻を乗せた探査艇が海底を調査中地震が襲い、

身動きが出来なくなった。彼は妻と自分の会社の部下を救うべく単身、サブの

調査艇に乗り込み、事故て身動きできなくなった探査艇の元を急いだ。


探査艇の動力部をふさぐ岩盤をとりのぞき、ようやくり浮上できるタイミングで

海底地震がおき、岩盤が二隻に降り注ごうとしていた。


アイツは自分の乗っている探査艇を岩盤にぶつけ、奥さんが乗っている

探査艇への直撃を避けさせた。アイツは勝算のない事はしないのにな、

メインの探査艇は無事に浮上した。


アイツの探査艇は衝撃で近くの海溝に落ち、途中の棚に不時着した。


奥さんが海上に浮上し、すぐに交信したが、数分後酸素の残量がゼロに

なり、妻に最後の伝言を残して通信は断絶した」


「探査艇の捜索、引き上げはその後されなかったんですか」


「あのあと再び地震が起きて、もっと深い深海に探査艇は飲み込まれた。

捜索不可能ということで、あきらめたんだ。海の底で眠っているはずの

あいつを見たとき驚いたさ、学生時代の文句のひとつくらいは言えなかったが

悔やまれる」


「亡霊があなたの親友なんですね。それでこの屋敷と彼に何の関係が?」


「この屋敷は、親父がずいぶん前に譲り受けたらしいが、この屋敷というか、

その家にまつわるおどろしい噂なら聞いていたが、関係するのかどうかわからない」


「噂?」


「戦後まもなくだったか、昭和30年代のころかわからないが、見目麗しい兄妹と

妹の許婚が別荘に滞在しているときに、そんなに近くはないんだが精神病患者

を隔離している施設から男が脱走して、その別荘に押し入り兄と許婚が惨殺された。

妹の方は意識を失い発見されたが、その夜の記憶を一切失っていた。

上流家庭の悲劇だったが、精神錯乱しての犯罪で犯人も死亡しているため

一切報道されなかった。一晩に最愛の兄と許婚を失っただけでも悲劇だが、

妹は妊娠していた、とき満ちて女の子を産んで死んだ。

未婚の女性が子供を生む、それも婚約者か惨殺者か父親が不明とくればスキャンダルだ。

だがその女の子の父親は、許婚でもなく、犯人でもなく、兄ではないか、

あの事件は兄と許婚が殺しあったという噂がまことしやかに流れた。

生まれた女子はすぐに里子に出された。女の子は本当のことを知らず、

里親に愛され、やがて結婚し女の子を産んだ、それがアイツの奥さんだった」


「それは、、、、」


「あくまで噂だ、何が事実かわからん。アイツは全てを知っていた、だから

アイツの奥さんは許婚の子供だと俺は信じているよ」


「その犯人はどうして、病院から脱走したんでしょうか?」


「病院では、悪魔が生まれると叫んでたらしいがね。

狂信的な宗教に帰依していて現実と幻をさまよっていた頭のおかしな

人間だった、それだけだ」


「あなたの親友が命を懸けて救った奥さんはどうしたんですか?」


「10年近く前に事故にあい、旦那の眠る同じ海底に今も眠っている」


「二人とも同じ海底に眠っている?」


「そう、だから今夜のことはありえないのさ、あの二人は同じ海底で

静かに眠りについている。亡霊が何故目覚め俺の目の前に現れるのか」


「昔の事件に、何か秘密があるのではないんですか?」


「だが既に終わった事件だ、それにあの事件があったのは軽井沢でない、

那須の別荘だ」


「そうなんですか?」


「だからここに君も俺もいるわけなんだがね。そんな事件があった場所に

新婚まもない夫婦がくるわけないだろう?」


「そうですね」


「だが関係はあるさ、話していてもうひとつの噂を思い出したよ」


その時にバリバリと窓が揺れる、大音響で外から声が聞こえる。


「キョーコくん、れーん、無事か?正義の味方が助けに来たぞ」


ヘリに乗った騎兵隊が到着したらしい。何でいつもかっこいいところを

あの人は持っていくのだろう。


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続く その7  へ


ごめんなさい、ごめんなさい、目指せエロカワコワス路線が