Kierkegaard

その前の話 その1 その2 その3


「おやすみ、マヤ」


真澄は、マヤの額に口付けを落とすと静かに寝室をでた。


天井がゆっくりと人型にゆがみ、ベッドの脇に降り立つ。人型をした空間の

ゆがみは、女を見つめているようだ。


女の体が数十センチほど浮かびあがり、女を覆っていた毛布がゆっくりと床に落ちる。


女のブラウスのボタンがぷぷちとひちつづつはずされ、するすると脱がされ

床に落ちた。


女の体を包む衣服が一枚ずつぬがされ、やがて白い裸体だけになった。


女の顔に官能の表情が浮かび、透き通るような肌に薄紅色が施される。


宙に浮かぶ女は、愛する男だけが知る恍惚の表情を浮かべる、甘いゆりの匂いが

室内に充満する。


花は蜜をたたえ、蝶をよんでいる。


女の瞳はいまだ固く閉じられたままだ。


女の長い髪が宙に舞う、柔らかでしなやかな肢体が、宙に舞う。


女の口が開き、なにかつぶやいたとき、固く閉じられた瞳が開かれた。


女の瞳には恐怖が浮かび、悲鳴を上げる瞬間、ずんと室内の空気が圧縮

したような気がした。


間接照明の明かりが消え、再び灯ったとき、女の姿も、女が身に着けていた

衣類も消えていた。


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くすぐったい、真澄さんどうしたの?だめ、もう少しだけ寝かして。


目覚めたいのに、まだその優しさに包まれたくて、なされるままに身を

ゆだねる。


「君は俺の妻だ」


「どうしたの、この間結婚したのよ、忘れたの?」


「君とこうしているのが信じられなくて、もう一度プロポーズをしたくてね。返事をしてくれ」


「もう一度言うわ、私はあなたの妻になります」


あなたの顔は見たくて、目を見開くと抱きしめられているのに、

私はあなたを体で感じているのに、そこには誰もいなかった。


深い口付けをされ、私の体の中でなにかがはじけた。


恐怖で視界が揺らぐその瞬間、体がばらばらに引き裂かれ意識を手放した。


続く その5