「おやすみ、マヤ」
真澄は、マヤの額に口付けを落とすと静かに寝室をでた。
天井がゆっくりと人型にゆがみ、ベッドの脇に降り立つ。人型をした空間の
ゆがみは、女を見つめているようだ。
女の体が数十センチほど浮かびあがり、女を覆っていた毛布がゆっくりと床に落ちる。
女のブラウスのボタンがぷぷちとひちつづつはずされ、するすると脱がされ
床に落ちた。
女の体を包む衣服が一枚ずつぬがされ、やがて白い裸体だけになった。
女の顔に官能の表情が浮かび、透き通るような肌に薄紅色が施される。
宙に浮かぶ女は、愛する男だけが知る恍惚の表情を浮かべる、甘いゆりの匂いが
室内に充満する。
花は蜜をたたえ、蝶をよんでいる。
女の瞳はいまだ固く閉じられたままだ。
女の長い髪が宙に舞う、柔らかでしなやかな肢体が、宙に舞う。
女の口が開き、なにかつぶやいたとき、固く閉じられた瞳が開かれた。
女の瞳には恐怖が浮かび、悲鳴を上げる瞬間、ずんと室内の空気が圧縮
したような気がした。
間接照明の明かりが消え、再び灯ったとき、女の姿も、女が身に着けていた
衣類も消えていた。
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くすぐったい、真澄さんどうしたの?だめ、もう少しだけ寝かして。
目覚めたいのに、まだその優しさに包まれたくて、なされるままに身を
ゆだねる。
「君は俺の妻だ」
「どうしたの、この間結婚したのよ、忘れたの?」
「君とこうしているのが信じられなくて、もう一度プロポーズをしたくてね。返事をしてくれ」
「もう一度言うわ、私はあなたの妻になります」
あなたの顔は見たくて、目を見開くと抱きしめられているのに、
私はあなたを体で感じているのに、そこには誰もいなかった。
深い口付けをされ、私の体の中でなにかがはじけた。
恐怖で視界が揺らぐその瞬間、体がばらばらに引き裂かれ意識を手放した。
続く その5
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