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Kierkegaard
居間の扉が開き、絨毯の毛が人の足跡を形どり沈み込む、扉がパタンと

閉められた。


足跡が俺とキョーコの座るソファまでゆっくりと近づいて来る。


人の気配を感じるのに、俺の目に映るのは居間の扉であり、さえぎるものは

何も映らない。


キョーコをいっそう強く抱きしめ、怒気を目に見えぬ相手に向ける。


だが怯むことなくソイツは俺たちめがけて歩みを止めない。


あたりを張り詰めた空気が流れ、俺は手をこまねいていた、先に動いた方が

負けるような気がしたからだ。


あと数歩というところで、上からずんと音がした、俺は顔を正面に向けたまま、

視線だけを天井に向けると人型にゆがんでいる。


人型がぽとりと落ちてきた瞬間、俺はキョーコを抱いたまま、ソファから転げ落ち、

数メールばかりジャンプした。


人型のほうは、空間がゆがんで見えるので、よけられそうだが、透明人間の方が

やっかいだ。俺は、キョーコが纏っているショールを透明人間のほうに投げかぶせた、

ショールは人型になる。


俺はキョーコを抱きかかえ、あいつらより先に居間の扉をあけて廊下にでた。


右の方向にある玄関へ行こうとしたが、俺の感がそこへ行くのは危険だと知らせる。


俺は左の方向へ向かった、二階へ向かう階段があり、俺はキョーコを抱きかかえたまま

一気に駆け上がる。


二階の回廊をみやると一室の扉が開かれていた、俺はそこへ行き中を覗くと速水氏が

倒れていたので、室内に入り容態を確認する。


昏倒しているだけなので、肩をつかみ、胸に手で当身を食らわした、ぐぅと口から漏れ、

彼の意識がはっきりする。


「速水さん、何が起こっているんですか」


「俺にもわからんが、どうやら昔の亡霊のせいらしいな、あいつは十数年前に死んだ

はずだったんだが、生きていたいたらしいな、君たちにも迷惑をかけてすまない」


「早くここから脱出しないと、下の様子だと普通に玄関からは逃げられ

ないみたいです」


速水氏はPCを操作し、あらゆる通信手段をためしたがダメだったらしい。


「あのマヤさんはどうしたんですか?」


「この部屋から忽然と消えたよ、俺は彼女を起こすためここに来て、

亡霊に殴られた」


「その亡霊とこの屋敷は何か関係があるんですか?」


「関係ない、いや、まさか...」


速水氏は、そのまま黙り込んでしまった。俺はキョーコを抱きかかえ、まだ目を

覚まさない彼女が心配だった。何故、目を覚まさない。恐らくこの屋敷を覆う

何かの力が彼女を捕まえたままなんだ。


どうすればいい、一階の様子も気になるが、下でうごめいていたものたちも

すぐにはここへ来ないらしい。


ふーと大きく深呼吸する。キョーコは俺の腕の中にいる、俺はキョーコを守る。


速水氏が口を開き、亡霊と屋敷について語った。


続く その6