お父さんアルフレード に続き、いよいよ真打ちヴィオレッタの比較です。

(あらすじが必要な方はこちら をどうぞ)


          ヴィオレッタ      アルフレード    ジェルモン氏  

2000年11月 Victoria Loukianetz Giuseppe Sabbatini Thomas Allen

2001年5月 Darina Tokova Giuseppe Filianoti  Dimitri Hvorostovsky

2001年6月 Darina Takova Tito Beltran Dimitri Hvorostovsky

2002年12月 Inva Mula Edgaras Montoridas Paolo Gavanelli

2003年1月 Ruth Ann Swennson Joseph Calleja Paolo Gavenelli

2005年2月 Norah Amsellem Charles Castronovo Gerald Finley

2006年1月 Anna Maria Martinez Charles Castonovo Zalko Lucic


traviata 2  涙なしでは見られない最後の場面



La Traviataを一人で支えるのはヴィオレッタ。衣装を変えるために途中一度少し引っ込むだけで、後はほぼ出ずっぱりの歌いっ放し。芝居は大して上手でなくても同情を得るストーリーなのですが、一幕目の最後に難しいアリアがあるし、なかなか大変な役です。

一口にソプラノと言っても声の質によっていくつかのタイプがあって、他のオペラのヒロイン役は自ずからタイプが決まっているのですが、ヴィオレッタは色んな要素があってどのタイプにも少しづつ適する箇所があるので、誰でもやってみたくなるようです。言い換えれば、全ての場面でぴったりはまることが難しいわけで、明るく軽やかな第一幕、暗くて重い第三幕の両方を同じように上手に出来る人はざらにはいないと思います。


ROHの椿姫といえば映像になっている94年のアンジェラ・ゲオルギュー。それまで無名だった彼女が抜擢されて一躍スターになったのは伝説になっているのはご存知でしょう。私はその頃は育児と仕事で忙しくてオペラハウスになど行ける状態ではなかったので知りませんでしたが、彼女があまりにも素晴らしいので急遽テレビ放映することになったと聞いています。彼女が今でもよくROHに出てくれるのは、その恩返しということもあるかもしれません。


そんな大スターは出てくれませんが、今回はシビアに順位付けます。


ベストは迷わずインヴァ・ムーラ。このときは舞台から至近距離の席で最高の臨場感だったのも一因かもしれませんが、小柄な彼女は細やかな演技と全く危なげのない安定して魅力的な歌唱力で目の前にいるのはまさにヴィオレッタでした。椿姫の出来が良い私は泣くのですが(ゲオルギューの映像なんて何度観ても泣けます)、このときは気持ちよくたっぷり泣かせてもらいました。

ドミンゴ主催のコンテストで見出された「印旛村」は日本でもちょっと前に素晴らしい椿姫で評判になったそうですが、映像のリゴレットも良いし、何でもいいから是非また聴きたいです。

violetta 1  素晴らしかったムーラ




2位はダリーナ・タコヴァ。続けて2度行きましたが、声量たっぷりで艶のある声には始終聞き惚れました。しかし残念ながら高音になると萎んでしまうのです。こういう人はよくいますが、あれだけ低音中音が魅力的なのだから、いっそメゾ・ソプラノに転向すればいいのではないかとすら思います。サンサーンスのデリラなんか歌ったら素敵にちがいない。

椿姫の第一幕の終わりに難易度の高いアリアがあって、テンポの早いコロラチュールで軽く転がした後に超高音でクライマックスになる部分があり、ここが一番の聞かせどころなのですが、それを出す自信のない人は一オクターブ下げてしまうのです。フィギアスケート選手が3回転で無難に乗り越えようか思い切って4回転やってみようかと決断を迫られように、直前までどうしようか迷うヴィオレッタもいるでしょう。

高い声がきれいに出てなんぼというのがソプラノですから、ここで無難に低く済まされたら一気に評価も下がるのですが、ダリーナはやっぱり2回とも下げたのでした。上記の歌手の中で下げたのは彼女とマルチネズだけですが、ダリーナはそれにも拘わらずの2位で、他の部分がいかに素晴らしかったかということです。

violetta 3  高い音がきれいに出るといいのにね



3位はルース・アン・スウェンソン。底抜けに明るいヤンキー娘の彼女は(巨大オッパイなのでイヤラシ系の雑誌に出てきそうにも見えるのですが)当時メトの花形ソプラノ。このときはなんとインヴァ・ムーラとのダブルキャストで今までで一番の豪華版。実はこの日は用事があったので一幕だけしか見てないのですが、スウェンソンの華やかな雰囲気とシュガーのように甘い声は第一幕のパーティシーンにはぴったり。最後の死ぬ場面は違和感ありそうですが、そこは残念ながら聴いていないのに比較して順位付けるのはフェアではないですが、第一幕が一番大事で歌唱力はここでわかります。

スウェンソンは他にはROHでヘンデルの「セミレ」を聴きましたが、それは彼女にぴったりで素晴らしかったです。でもヴィオレッタが彼女に向いてるとは思えません。

violetta 2  明るくてはちきれそうな健康娘だからちょっとキャラ違い。

でも「知名度は私が一番よ~。最後まで観て欲しかったわね~!」。すみません。




4位はヴィクトリア・ルキアネツ。この日彼女は代役で、開幕2時間前に到着したというアナウンスがありました。とても小柄な彼女に衣装はちゃんと直してなくて大慌てであちこち縫い縮めただけ、振り付けを覚える時間がなかったので舞台の上で右往左往。挙句の果てにテーブルの上にあった小道具をショールで倒してガシャーンという音を立て、ハラハラと緊張感のある舞台でした。

その日出る予定だったのはROHにはよく出るけど私の嫌いなエレーナ・ケレシディだったので、代役で私は喜び、ルキアンツは多少声量不足だったけど、ケレシディよりは絶対ましに決まってます。



5位はノラ・アンセレム。去年もダブルキャストだったのですが、ヴィオレッタの予定が何度か変わり、一時はステファニア・ボンファデッリが出ることになっていたのです。そりゃ彼女が見たいですから、それに合わせて切符を買い直したのに、結局出ないことになり、またちがう日に変えたら立見席しか残っていませんでした。

かぎ鼻で陰気な魔法使いのおばあさんのようなノラはその容貌通り暗い声なので、一幕目の美しく魅力的なヴィオレッタは全然駄目でした。ずっと立ってるのもしんどいので余程帰ろうかと思いましたが、先に観た人が死ぬ場面はよかったと言ってたので最後まで我慢して聴くことにしました。そしたら本当に最後はよかったんです。醜いメイキャップの死に役がぴったりで演技も真に迫り、涙が出ました。第一幕はスウェンソンがやって最後はノラがやると丁度よさそう。



どこにも出て欲しくないのは最下位のアナ・マリア・マルチネズ。これまで散々悪口を書きましたが、私の嫌いな声質ととコントロールが全くできてない歌で、こんな人を去年に続いて出すなんてROHの名に恥じます。初めてオペラ観る人も多いのだから、ああオペラ歌手ってすごい、また聞きにこよう、って思ってもらえる人出さなきゃ駄目じゃないですか?!失望の初日の記事はこちら

traviata 1  もう出ないでね・・